・・・市内のデパートで百円以上の反物が飾窓に出されて数時間のうちに売れてしまうということ、角力と芝居と花柳界の繁昌は未曾有であるが、歌舞伎座で来週は何がかかるかと訊く観客が出現しているということ。然し現代風俗として見るとき、これらの現象はこれだけ・・・ 宮本百合子 「風俗の感受性」
・・・ 翌年の春、この出来事によってかえって生活に対する溌剌さをとり戻したゴーリキイは、学生仲間で知り合ったロマーシという、シベリア流刑から帰ったナロードニキと、ヴォルガ下流の或る村へ行った。ロマーシはそこで「人間に理性を注ぎ込む仕事」をし、・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・荷風が、弱々しき気むずかしさでそれらの女の生活と内容に自身を無縁なものと感じ、恋愛の対象としての女を花柳界の人々に求めたことも理解される。荷風は花柳界が時代にとりのこされているものであることも十分承知の上で、ただこのマンネリズムの中にだけ彼・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
・・・の感覚などのうちに退嬰し、徳川末期に到っては身分制に属しながら実力はそれを凌駕している町人階級の文学としてそこでだけは武士の力がものをいわぬ遊里、花柳界遊蕩の文学が発生したのであった。この種の文学の世界では近松の作品にあっては人間性の悲劇の・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫