・・・アグネスの不幸は、環境から性的なものを最も素朴な発動の形で男女の関係の間に知っていて、しかも彼女が人間としてより自由な、より豊富な情操の発展として愛を望むと、その方向には既成社会が、貧困、無智、過労とともに下層階級の女の肩に一際重くなげかけ・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・七月に過労のため血圧が高くなりまた視力があやしくなった。そのため三ヵ月ほど休養した。後半期は講演を全廃した。組織の会合にも欠席することを許して貰った。小説だけにしたこの仕事の割あては今日もつづいている。一九四七年度の毎日出版文化賞が・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・元の賃銀率システムには、熟練工と不熟練工、過労な労働と軽い労働との間の差が具体的に区別出来ない欠点があった。所謂平均主義者に向って、スターリンは、生産の主人であるソヴェトのプロレタリアートが、賃銀の新条件、住宅、配給の改良によって、益々階級・・・ 宮本百合子 「反動ジャーナリズムのチェーン・ストア」
・・・だから、御婦人の生活をよく知っているとは云えないかもしれないが、見ていると、実に日本の婦人の生活は過労です。気の毒にたえないほど疲れはてた状態だと思うんだが、どうですか」 赤ちゃんを背中から膝の上にだきとり、さもなければ牧子のように一人・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ あらゆる分野で、男より低廉な賃銀で過労し、母性の重荷を負った不熟練技術者としての婦人を準備しつつある。その社会的な弱点を改正しようとしないで、女は、女は、と女のおくれをせめつけるのは甚しい矛盾だ。なぜなら、「女は」と女をいやしめる人々・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・野田は天草の家老野田美濃の倅で、切米取りに召し出された。四月二十六日に源覚寺で切腹した。介錯は恵良半衛門がした。津崎のことは別に書く。小林は二人扶持十石の切米取りである。切腹のとき、高野勘右衛門が介錯した。林は南郷下田村の百姓であったのを、・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・簑田は曾祖父和泉と申す者相良遠江守殿の家老にて、主とともに陣亡し、祖父若狭、父牛之助流浪せしに、平七は三斎公に五百石にて召し出されしものに候。平七は二十三歳にて切腹し、小姓磯部長五郎介錯いたし候。小野は丹後国にて祖父今安太郎左衛門の代に召し・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・姫路ではこの男は家老本多意気揚に仕えている。名は山本九郎右衛門と云って当年四十五歳になる。亡くなった三右衛門がためには、九つ違の実弟である。 九郎右衛門は兄の訃音を得た時、すぐに主人意気揚に願書を出した。甥、女姪が敵討をするから、自分は・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・こうしてこの家中は、家老より小者に至るまで、意地ぎたない、人を抜こうとするような気風になってしまう。 第三は、臆病なる大将である。「心愚痴にして女に似たる故、人を猜み、富める者を好み、諂へるを愛し、物ごと無穿鑿に、分別なく、無慈悲にして・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫