・・・この驚くべき技巧がもっともっと自由に応用され、観客が次第にそれに慣らされて、そうしてそれに固有な効果を十二分に感受することのできる日が来るとしたら、その日から人間の子孫にとっては全く新しい世界が生まれるであろう。 映画における「時」につ・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・その結果として、自然の充分な恩恵を甘受すると同時に自然に対する反逆を断念し、自然に順応するための経験的知識を集収し蓄積することをつとめて来た。この民族的な知恵もたしかに一種のワイスハイトであり学問である。しかし、分析的な科学とは類型を異にし・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・色々の豆のために命を殞さないまでも色々な損害を甘受する人がなかなか多いように思われるのである。それをほめる人があれば笑う人があり怒る人があり嘆く人がある。ギリシャの昔から日本の現代まで、いろいろの哲学の共存することだけはちっとも変りがないも・・・ 寺田寅彦 「ピタゴラスと豆」
・・・しかして彼らはこの寒さと薄暗さにも恨むことなく反抗することなく、手錠をはめられ板木を取壊すお上の御成敗を甘受していたのだと思うと、時代の思想はいつになっても、昔に代らぬ今の世の中、先生は形ばかり西洋模倣の倶楽部やカフェーの媛炉のほとりに葉巻・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・当時、君はその忠告を甘受したるか。我々ひそかに案ずるに、君は決してかかる忠告を聴く者に非ず。その忠告者をば内心に軽侮し、因循姑息の頑物なりとてただ冷笑したるのみのことならん。 されば我々年少なりといえども、二十年前の君の齢にひとし。我々・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・社会現実の変化はいつのまに生きる人間の感情をさえどのように変化させ発展させてゆくものであるかという相互の関係を、ソヴェトの人々の生活において感受したばかりでなく、自分の内部的変化として自覚した。ソヴェトの人民が、自分たちの運命をみずから変え・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・詩、絵、短篇小説類を集めた大判の雑誌で、それを見ると、彼等の陽気さ、活気、或る時には茶目気をふんだんに感受することが出来ますが、英国で嘗て、ビアーズレー、エーツ等の詩人、画家が起した新運動等は、これらの同人雑誌から期待することは出来ません。・・・ 宮本百合子 「アメリカ文士気質」
・・・日本の自覚あるすべての勤労者が、歴史のうちに描きだす自分たちの人生を大切に思い、自分たちの生命の価値を表現する職務を愛し、自分とすべての人々のために力ある組織をもちはじめているいま、人生を感受することの最も鋭いはずの作家たちが、自分たちも組・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・ わたくしは、小説をかく者ですから、『仰日』をはじから拝見しながらも、いつかそれを生活的に立体化して感受し、日々の生活の描写にまじえて、自然鑑賞の歌をうけとるという工合になります。生活の歌はほとんどすべて率直であって、その瞬間の真実に立・・・ 宮本百合子 「歌集『仰日』の著者に」
・・・スーは、孤独の代償として自由を甘受して、その群像を完成させた。マークは生前、この群像の女が、手に子供を抱きながら、その目ではどこか遠くを見ている、それを指して、君そっくりじゃないか、と非難めいた苦しい顔をしたのであった。 群像を仕上げた・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
出典:青空文庫