・・・諸君も今のうちにこの観察力を養っておく事が肝要だろうと思います。それでさし当たりこの夏休みに海岸へでも行かれる人のために何か観察の材料になりそうな事を少しばかりお話ししましょう。 だれでも海べに出ていちばん見飽かずおもしろいと思うの・・・ 寺田寅彦 「夏の小半日」
・・・しかし子供のような心で門下に集まる若い者には、あらゆる弱点や罪過に対して常に慈父の寛容をもって臨まれた。そのかわり社交的技巧の底にかくれた敵意や打算に対してかなりに敏感であったことは先生の作品を見てもわかるのである。「虞美人草」を書いて・・・ 寺田寅彦 「夏目漱石先生の追憶」
・・・ 思うままを備忘までに書いてみた、名前を挙げた画家達に礼を失するような事がありはしないかと思うが、素人の妄言として寛容を祈る。 寺田寅彦 「二科会その他」
・・・そうして土着した住民は、その地形的特徴から生ずるあらゆる風土的特徴に適応しながら次第に分化しつつ各自の地方的特性を涵養して来たであろう。それと同時に各自の住み着いた土地への根強い愛着の念を培養して来たものであろう。かの茫漠たるステッペンやパ・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・そうしてこのような災害を避けるためのあらゆる方法施設は火事というものの科学的研究にその基礎をおかなければならないという根本の第一義を忘却しないようにすることがいちばん肝要であろうと思われるのである。・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・ 世人は自分勝手に自分らの東郷さんの鋳型をこしらえて、そうして理が非でもその型にはまることを要求した。寛容な東郷大将はそうした大衆の期待を裏切って失望させては気の毒だと思って、かなりそのために気をつかっておられたのではないかという気もす・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・少なくも精密の度というものは比較的のものである事をよく理解させるが肝要であると思う。 また「大きさ一様なる棒」とか「平面」とか「球面」とかいうものも厳密には実現し得られない事も忘れてならない。長いガラスの円筒の直径をカリパーのようなもの・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・ 複雑な実際問題を研究して先ずその真相を明らかにしようという場合には、先ずその大体を明らかにして枝葉を後にするのが肝要である。これも多くの人にとっては平凡な事であろうが、世人からは往々忘れられる事である。渾沌とした問題を処理する第一着手・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
・・・ レビュー見学のノートから脱線してつい平生胸に溜まっていた教科書の不平をこぼしてしまったが、こういう脱線もまた一つのレビュー的随感録の一様式中の一景として読者の寛容を願いたいと思う。 政府の統制の下に組織された教育のプログラムがレビ・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・例えば鼻の大きい人の鼻を普通の計測的の大きさの比以上に廓大して描いたり、喜怒の感情の発現を誇張した身振りで示すがごときは、最も月並な慣用手段である。もう少し進んだのになると、鼻や小鼻の曲線のあるデリケートな抑揚をつかまえて、これを少しアクセ・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
出典:青空文庫