・・・ 日本詩歌のリズムの研究が、メトロノームの搏音をつかっての心理学的実験によってなされたことは、この方面において若い心理学徒の多くの業績が期待され得ることを意味すると思う。 文学に関する面でも、近頃文章学は従来の作家に縁の遠かった修辞・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・学校の女生徒たちは、学徒動員で働きに出て行かなければならないが、寄宿舎はやはり営まれていて、皆がそこに暮していた。 ところが駐屯して来た軍隊は、その学校の表門にかけてある看板が、生意気だ、今頃英学塾というような敵性語を教える看板を麗々し・・・ 宮本百合子 「結集」
・・・さもなくて、どうしてすべての若い女を勤労動員し、すべての学徒の、文科学生だけを前線にかり出すことが出来たろう。献金、献金、供出、供出と強要できたろう。八月十五日が来たとき、日本じゅうに灰色の煙をたててそれらの血ぬられた統計は焼却された。・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・ソ同盟の社会主義社会の運営方法や建設の現実を、捕虜という条件にいながらも公平に評価しようとした若い学徒兵たちの記録。ソ同盟での捕虜生活について流布されている暗い噂を、日常生活の事実で明かにしようとしたルポルタージュなどであった。 こうし・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・ 又、コロンビアの大図書館の石階を登りつめた中央に、端然と坐して、数千の学徒を観下す、Alma Mater をも御存じでございます。 彼女等は皆此の広大なアメリカの精神の中枢となって生きて居ります。 こちらの「女性」と云う概念は・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・徴用でいろいろな職場で働き、学徒動員で、生涯の目標を挫折された人も少くなかった。家を焼かれ、肉親と生活の安定を失った人も沢山あるだろう。めいめいの人生に、深い深い傷を受けて、そうして戦は終った。 民主的な日本にしなければならないというポ・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・特攻隊に参加はしなかったが学徒動員と徴用とによって過去四、五年間日本の全ての若い人が動員された。そして突然、自分の生活の道を変更させられ、何年間か一貫した目的を以ていそしんでいた学業や仕事を放擲させられ、一つの鍋の中に打ち込まれた豆のように・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
学徒動員ということがはじまって学生が戦線にかり立てられはじめたころ、日本のファシズム権力は、そういう立場に立たされた若い人々自身およびその周囲の理性人の思索なり感情なり批判なりを公表されることを極度にきらった。大学新聞は廃・・・ 宮本百合子 「一つの灯」
・・・今日学生の本分が、教室での勉強にあるというならば、政府は、校門から数十万の学徒出征をさせたあの事実を、それらの青年たちに向って何と説明するつもりだろう。一人の人間が、政府の都合で勇敢な一人前の男にされたり、半人前の学生ときめられたりすること・・・ 宮本百合子 「メーデーぎらい」
・・・ 姉の時代は学徒動員で、そこには青春の破壊とそれによって不具にされた若さがある。 いま十六になったわかい人たちのなかで、少し考えるひとは、その二つの姿に、自分たちはどう生きようとしているか、という課題を対決させずにはいられない状況に・・・ 宮本百合子 「若い人たちの意志」
出典:青空文庫