・・・ なんかで、がぶがぶ遣っちゃ話にならない。 金岡の萩の馬、飛騨の工匠の竜までもなく、電燈を消して、雪洞の影に見参らす雛の顔は、実際、唯瞻れば瞬きして、やがて打微笑む。人の悪い官女のじろりと横目で見るのがある。――壇の下に寝ていると、・・・ 泉鏡花 「雛がたり」
・・・ろくろく考えもせず、すぐに大声あげて名乗り出たのは末弟である。がぶがぶ大コップの果汁を飲んで、やおら御意見開陳。「僕は、僕は、こう思いますねえ。」いやに、老成ぶった口調だったので、みんな苦笑した。次兄も、れいのけッという怪しい笑声を発した。・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・ 彼は、電話の番号帳により、キヌ子のアパートの所番地を調べ、ウイスキイ一本とピイナツを二袋だけ買い求め、腹がへったらキヌ子に何かおごらせてやろうという下心、そうしてウイスキイをがぶがぶ飲んで、酔いつぶれた振りをして寝てしまえば、あとは、・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・私はビイルを、がぶがぶ飲んで、「少し優しくすると、すぐ、程度を越えていい気になるし、ちょっと強く言おうと思うと、言われぬ先から、泣きべそをかいて逃げたがるじゃないか。君たちに自信を持ってもらいたくて、愛だの、理解だのと遠廻しに言っているのに・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・すしやに行き、大急ぎで酒を呑むのであるが、そんなときには、家に酒が在ると便利だと思わぬこともないが、どうも、家に酒を置くと気がかりで、そんなに呑みたくもないのに、ただ、台所から酒を追放したい気持から、がぶがぶ呑んで、呑みほしてしまうばかりで・・・ 太宰治 「酒ぎらい」
・・・私は、いよいよ面白くない気持で、なおもがぶがぶ、生れてはじめてのひや酒を手酌で飲んだ。一向に酔わない。「ひや酒ってのは、これや、水みたいなものじゃないか。ちっとも何とも無い。」「そうかね。いまに酔うさ。」 たちまち、五ん合飲んで・・・ 太宰治 「酒の追憶」
・・・り破って、そのうちに、この災難に甘えたい卑劣な根性も、頭をもたげて来て、こんなに不愉快で、仕事なんてできるものか、など申しわけみたいに呟いて、押入れから甲州産の白葡萄酒の一升瓶をとり出し、茶呑茶碗で、がぶがぶのんで、酔って来たので蒲団ひいて・・・ 太宰治 「新樹の言葉」
・・・ 飲ませろ、と言われた時には、あいにく日本酒も何も無かったので、その残り少なの秘蔵のウイスキイを出したのであるが、しかし、こんなにがぶがぶ鯨飲されるとは思っていなかった。甚だケチ臭い愚痴を言うようだが、まるで何か当然の事のように、大威張・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・それに、下品にがぶがぶ大酒を呑む。女に、好かれる筈は無いのである。私には、それをまた、少し自慢にしているようなところも在るのである。私は、女には好かれたくは無いと思っている。あながち、やけくそからでも無いのである。ぶんを知っているのである。・・・ 太宰治 「俗天使」
・・・男と女が、コオヒイと称する豆の煮出汁に砂糖をぶち込んだものやら、オレンジなんとかいう黄色い水に蜜柑の皮の切端を浮べた薄汚いものを、やたらにがぶがぶ飲んで、かわり番こに、お小用に立つなんて、そんな恋愛の場面はすべて浅墓というべきです。先日、私・・・ 太宰治 「花吹雪」
出典:青空文庫