・・・小声で礼を言って、それを受け取り、少女の真似して湯槽にはいったまま腕をのばしカランをひねり、意味もわからずがぶがぶ飲んだ。塩からかった。鉱泉なのであろう。そんなに、たくさん飲むわけにも行かず、三杯やっとのことで飲んで、それから浮かぬ顔してコ・・・ 太宰治 「美少女」
・・・三木は冷淡だった。がぶがぶ番茶を呑んでいる。「あたし、働く。」そう言って、自分にも意外な、涙があふれて落ちて、そのまま、めそめそ泣いてしまった。「もう、僕は、君をあきらめているんだ。」三木は、しんからいまいましそうに顔をしかめて、「・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・と碌さんはがぶがぶ飲む。 圭さんは臍を洗うのをやめて、湯槽の縁へ肘をかけて漫然と、硝子越しに外を眺めている。碌さんは首だけ湯に漬かって、相手の臍から上を見上げた。「どうも、いい体格だ。全く野生のままだね」「豆腐屋出身だからなあ。・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・ となりの男は、かんかんおこってしまってもう物も言えず、いきなりがぶがぶ水へはいって、自分の水口に泥を積みあげはじめました。主人はにやりと笑いました。「あの男むずかしい男でな。こっちで水をとめると、とめたといっておこるからわざと向こ・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・ そしてまた水をがぶがぶ呑みました。それから窓をあけていつかかっこうの飛んで行ったと思った遠くのそらをながめながら「ああかっこう。あのときはすまなかったなあ。おれは怒ったんじゃなかったんだ。」と云いました。・・・ 宮沢賢治 「セロ弾きのゴーシュ」
・・・ファゼーロが向うの卓にひとり坐って、がぶがぶ酒を呑んでいる黄いろの縞のシャツと赤皮の上着を着た肩はばのひろい男を指さしました。 誰か六七人コンフェットウや紐を投げましたので、それは雪のように花のようにきらきら光りながらそこらに降りました・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
出典:青空文庫