・・・この長沢先生の時間と覚えておりますが、その先生がカッパードシヤカッパードシヤとボールドへ書くので、そのカッパードシヤを書こうとしてチョークを捜すために抽斗を明けると、その抽斗の中から豆ががらがらと出て来たというような話がある。これは先生を侮・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・耳門はがらがらと閉められた。 この時まで枯木のごとく立ッていた吉里は、小万に顔を見合わせて涙をはらはらと零し、小万が呼びかけた声も耳に入らぬのか、小走りの草履の音をばたばたとさせて、裏梯子から二階の自分の室へ駈け込み、まだ温気のある布団・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・夜も昼もがらがらがらがら三つの糸車をまわして糸をとりました。こうしてこしらえた黄いろな糸が小屋に半分ばかりたまったころ、外に置いた繭からは、大きな白い蛾がぽろぽろぽろぽろ飛びだしはじめました。てぐす飼いの男は、まるで鬼みたいな顔つきになって・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・ その時、表の方で、どしんがらがらがらっという大きな音がして、家は地震の時のようにゆれました。亮二は思わずお爺さんにすがりつきました。お爺さんも少し顔色を変えて、急いでランプを持って外に出ました。 亮二もついて行きました。ランプは風・・・ 宮沢賢治 「祭の晩」
・・・ 段々小倉が近くなって来る。最初に見える人家は旭町の遊廓である。どの家にも二階の欄干に赤い布団が掛けてある。こんな日に干すのでもあるまい。毎日降るのだから、こうして曝すのであろう。 がらがらと音がして、汽車が紫川の鉄道橋を渡ると、間・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・車輸はがらがら云う。車全体はわたくしどもを目の廻るようにゆすっていました。ですから一しょう懸命に「けっこう、けーっーこーう」とどならなくてはなりませんでした。まるで雄鶏が時をつくるようでございましたわね。あれが軟い、静かな二頭曳の馬車の中で・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「辻馬車」
出典:青空文庫