・・・そして晩い昼飯をしたたか喰った。がらっと箸を措くと泥だらけなびしょぬれな着物のままでまたぶらりと小屋を出た。この村に這入りこんだ博徒らの張っていた賭場をさして彼の足はしょう事なしに向いて行った。 よくこれほどあるも・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・なんのこったと思うと、僕はひとりでに面白くなって、襖をがらっと勢よく開けましたが、その音におとうさんやおかあさんが眼をおさましになると大変だと思って、後ろをふり返って見ました。物音にすぐ眼のさめるおかあさんも、その時にはよく寝ていらっしゃい・・・ 有島武郎 「僕の帽子のお話」
私は遊ぶ事が何よりも好きなので、家で仕事をしていながらも、友あり遠方より来るのをいつもひそかに心待ちにしている状態で、玄関が、がらっとあくと眉をひそめ、口をゆがめて、けれども実は胸をおどらせ、書きかけの原稿用紙をさっそく取・・・ 太宰治 「朝」
・・・玄関をがらっとあけると、私が、すぐそこに坐っている。家が狭いのである。 せっかく訪ねて来てくれたのである。まさか悪意を持って、はるばるこんな田舎まで訪ねて来てくれる人もあるまい。私は知遇に報いなければならぬ。あがりたまえ、ようこそ、と言・・・ 太宰治 「困惑の弁」
・・・がらがらがらっと、玄関の戸をひどく音高くあけてはいって来る。作品を持って来た時に限って、がらがらがらっと音高くあけてはいって来る。作品を携帯していない時には、玄関をそっとあけてはいって来る。だから、三井君が私の家の玄関の戸を、がらがらがらっ・・・ 太宰治 「散華」
あさ、眼をさますときの気持は、面白い。かくれんぼのとき、押入れの真っ暗い中に、じっと、しゃがんで隠れていて、突然、でこちゃんに、がらっと襖をあけられ、日の光がどっと来て、でこちゃんに、「見つけた!」と大声で言われて、まぶしさ、それから・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・あわてて、がらっと机の引き出しをあけ、くしゃくしゃ引き出しの中を掻きまわして、おもむろに、一箇の耳かきを取り出し、大げさに顔をしかめ、耳の掃除をはじめる。その竹の耳かきの一端には、ふさふさした兎の白い毛が附いていて、男は、その毛で自分の耳の・・・ 太宰治 「懶惰の歌留多」
・・・ その時、表の方で、どしんがらがらがらっという大きな音がして、家は地震の時のようにゆれました。亮二は思わずお爺さんにすがりつきました。お爺さんも少し顔色を変えて、急いでランプを持って外に出ました。 亮二もついて行きました。ランプは風・・・ 宮沢賢治 「祭の晩」
出典:青空文庫