・・・ともかくも気温や風の特異な垂直分布による音響の異常伝播と関係のある怪異であろうと想像される。今では遠い停車場の機関車の出し入れの音が時として非常に間近く聞こえるといったような現象と姿を変えて注意されるようになった。たぬきもだいぶ・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・延焼を支配するものは当時の風向風速気温湿度等のみならず、過去の湿度の履歴効果も少なからず関係する。またその延焼区域の住民家屋の種類、密集の程度にもよることもちろんである。これらの支配因子が与えられた場合に、火災が自由に延焼するとすればいかな・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・それが、日照とか夜間放熱とか気温とか風当たりとかそういう単なる気象的条件の差異によってこれらの遅速を説明しようと思っても、なかなか簡単には説明されそうもないような結果であった。また根の周囲の土壌の質や水分供給の差異によるとも思われなかった。・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・開花当時の気温を調べてみても必ずしも一定していない。無論その間ぎわの数日の気温の高低はかなりの影響をもつには相違ないが、それにしてもこの現象を決定する因子はその瞬間の気象要素のみではなくて、遠くさかのぼれば長い冬の間から初春へかけて、一見活・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・しかしてこれにはその室内の気温、気圧、湿度が直ちに関係する。また微弱な気流でもその落下の方向速度を変える事は明白である。しかるにこれらの温度や気流等はまた室内のみならず室外全宇宙の現象の影響を受けぬ訳には行かぬ。なおこのような影響を及ぼすも・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・たとえばある基音に対して長三度の音と短三度の音とを二つ別々に相当な時間を隔てて聞いたのではどちらでも全く同じ心持ちしか起こらない。しかし基音からすぐに長三度へあがるのと短三度へ上がるのとではそれこそ全く春と秋とちがうほどの差違を感ずるであろ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・地球ができてからいままでの気温は、たいてい空気中の炭酸ガスの量できまっていたと言われるくらいだからね。」「カルボナード火山島が、いま爆発したら、この気候を変えるくらいの炭酸ガスを噴くでしょうか。」「それは僕も計算した。あれがいま爆発・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・ この頃は、寒いといっても気温がゆるみました。私はどうかして夜更かしをせず早起きをして、仕事をして行きたいと思います。長いものを書くためには徹夜などもってのほかですからね。このためには大分がん張らないとどうしても夜更かしになるから困りま・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 今日は四月上旬の穏かな気温と眠い艷のない曇天とがある。机に向っていながら、何のはずみか、私は胸が苦しくなる程、その田舎の懐しさに襲われた。斯うやっていても、耕地の土の匂い裸足で踏む雑草の感触がまざまざと皮膚に甦って来る。――子供の時分・・・ 宮本百合子 「素朴な庭」
・・・雨につれて、気温も下り、四辺の空気も大分すがすがしく軽やかになったらしく感じる。――一人でその雨に聴き入っているのが惜しく、下に眠っているYにも教えたいと思った位。 大体、私共は旅行に出てから十日余、天気の点では幸運であった。京都にいた・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
出典:青空文庫