・・・ 映画では、はじめにウンラートの下宿における慰めなき荒涼無味の生活の描写があり、おまけにかわいがって飼っていた小鳥の死によって、この人の唯一の情緒生活のきずなの無残に断たれるという場面が一種の伏線となっているので、それでこそ後にポーラの・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・なもののように考えられ得る時代であったこと、また、プロレタリアの世界観は、現実の問題として、階級対立の社会にあっては支配階級のイデオロギーの侵害を多く受けているものであり、特に日本のように封建性の重いきずなが男女を圧しているところでは、女の・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・それらの良人、それらの妻は、どんな互のきずなによって、それぞれに多難な生活の事情のうちで互の誠実を処理して行っているであろう。ここにも直接産みふやしてゆくだけが、人間の結婚生活の全部でないという真実が示されていると思う。 昔の「女大学」・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・菊池寛にそのようなものとして描き出された天女が、諸国にすまってきずなは地にあこがれは空に冬すぎ春来て暮すうち、いつしかおゝ詩はやわらかい言葉のためにあるのではないとうたい出すようにもなって来たということは、ほ・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・紫式部のえらさは、文学者として美しいつよい描写で光君を中心にいくつかの恋愛を描きながら、一貫して人のきずなのまこと、まごころというものを主張しているところだと思う。「末つむ花」のような当時の文学のしきたりから見れば破格の面白さも、その点から・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ その上に、孝子夫人の生れ合わせが、生活の間に消されてしまわない熱さで人生を求めていたとすれば、文学への好みも、内面にひとかたならぬ、きずなをもっていたわけである。 孝子夫人は率直な方であった。それにもかかわらず、自分の詠まれた短歌・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・父の死後母は熱心な王党員である司令副官と結婚し、この一家とマリイ・アントワネットのきずなは、アントワネットが断頭台にのぼる前、ロオルの母に自分の髪飾りと耳輪とを形見に与えた程深いものであった。 そのような環境の中に幼時を経た頭の鋭い感傷・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ 佐藤春夫氏、谷崎潤一郎氏は深いきずなによって結ばれている二人の作家であるが、作家としての性質は違った二つのものであると思っていた。谷崎氏が日本文学に構成力が薄弱であることを不満とし、自身の抱負を文章によって述べていた頃の脂のきつい押し・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
出典:青空文庫