・・・恋愛がこの人生に於ける一つの建設である以上、先ず可能を捕えて行くという現実的な勇気がいる。既製品というものは存在しない。そのためには或る人々にとっては自身の求める対象が存在する可能性をもっている社会環境にまで、自分の生活を押しすすめて行こう・・・ 宮本百合子 「成長意慾としての恋愛」
・・・ーナリズムの上をほとんど独占しているかのように見える、直木三十五などを筆頭とする大衆文学と陸軍新聞班を中心として三上於菟吉などがふりまくファッシズム文学とに対抗してあげられたブルジョア純文学作家たちの気勢であったとも見られる。 この気運・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・ ――おや、微な気勢が近づいて来る。私になじみのあるものらしい――。イオイナの使者、一片の花弁のように軽く、女神の傍に降る。使者 およろこび下さい。女神様。そろそろ貴女のお力の効験が現れて来ました。災厄が余り突然やって・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・ 無理がとおれば道理がひっこむ、といういろは歌留多の悲しい昔ながらの物わかりよさが、感傷をともなった受動性・屈伏性として、急進的な大衆の胸の底にも微妙な形に寄生している。プロレタリア作家が腹の中でその虫にたかられている実証は、「白夜」そ・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
・・・女学校は綱領として経済的寄生者である良妻をつくることを目標としている。生産単位として男と同じ熟練技術者をつくろうとは決してしない。 あらゆる分野で、男より低廉な賃銀で過労し、母性の重荷を負った不熟練技術者としての婦人を準備しつつある。そ・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・同時に日本のファシズムを寄生的に生かす世界のファシズムが存在しています。イギリスのバーナード・ショウはああいう皮肉やですからその点ははっきりしています。彼はファシズムが、自分の国にながく生きがよく存在していることを新聞でいっています。日本の・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
・・・運命を知り、魂を浄め、時間と空間の規制を超える生命の智慧である。 人間の心を、心の起す種々雑多な現象を、観、批評し、想い思う明らかな叡智を、充分に持って居ないのではあるまいか。 総ての人間は戦った。けれども平和を求めて居たのだ。・・・ 宮本百合子 「無題」
・・・四月の初にF君が来て、父の病気のために帰省しなくてはならぬから、旅費を貸して貰いたいと云った。幾らいるかと云えば、二十五円あれば好いと云う。私はすぐに出してわたした。もう徼幸者扱にはしなかったのである。この金の事はその後私も口に出さず、君も・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・これを文として視ることをゆるす人でも、古言をその中に用いたのを見たら、希世の宝が粗暴な手によって毀たれたのを惜しんで、作者を陋とせずにはいぬであろう。 以上は保守の見解である。わたくしはこれを首肯する。そして不用意に古言を用いることを嫌・・・ 森鴎外 「空車」
・・・殊に、零点の置きどころを改革するというような、いわば、既成の仮設や単一性を抹殺していく無謀さには、今さら誰も応じるわけにはいくまいと思われる。しかし、すでに、それだけでも栖方の発想には天才の資格があった。二十一歳の青年で、零の置きどころに意・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫