-
・・・何か仔細の有そうな様子でしたが問返しもせず、徳蔵おじに連られるまま、ふたりともだんまりで遠くもない御殿の方へ出掛て行ましたが、通って行く林の中は寂くッて、ふたりの足音が気味わるく林響に響くばかりでした。やがて薄暗いような大きい御殿へ来て、辺・・・
若松賤子
「忘れ形見」
-
・・・それは清浄な感じを与えるのではなく、むしろ気味の悪い、物すごい、不浄に近い感じを与えたのである。死の世界と言っていいような、寒気を催す気分がそこにあった。これに比べてみると、爪紅の蓮の花の白い部分は、純白ではなくして、心持ち紅の色がかかって・・・
和辻哲郎
「巨椋池の蓮」