・・・金雀枝の茂みのかげから美々しく着飾ったコサック騎兵が今にも飛び出して来そうな気さえして、かれも心の中では、年甲斐もなく、小桜縅の鎧に身をかためている様なつもりになって、一歩一歩自信ありげに歩いてみるのだが、春の薄日を受けて路上に落ちているお・・・ 太宰治 「花燭」
・・・二人共陸軍騎兵中尉で、一人は竜騎兵、一人は旆騎兵に属している。 中にもどこへ顔を出しても、人の注意を惹くのは、竜騎兵中尉の方である。画にあるような美男子である。人を眩するような、生々とした気力を持っている。馬鹿ではない。ただ話し振りなど・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・ 八 ベンガルの槍騎兵 変わった熱帯の背景とおおぜいの騎兵を使った大がかりな映画である。物語の筋はむしろ簡単であるが、途中に插入されたいろいろのエピソードで「映画的内容」がかなり豊富にされているのに気がつく。たとえば・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・例えば第一区には「敵騎兵国境に進入」第二区には「重甲兵来る」と云った風な、最も普通に起り得べき色々な場合を予想してそれに関する通信文を記入しておく。次にこの土器に水を同じ高さに入れておいてこの木栓を浮かせると両方の棒は同高になること勿論であ・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・そのうち行列の前駆に騎兵が来ました。ピカピカ光る兜に黒い髪の毛をたらしている、キュイラシェと言うのだそうです。そのあとから楽隊が来る。止まったきりになっている電車の屋根の上はいっぱいの人でそこからも盛んにコンフェッチを投げる。楽隊のあとから・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・自分は上野の戦争の絵を見る度びに、官軍の冠った紅白の毛甲を美しいものだと思い、そしてナポレオン帝政当時の胸甲騎兵の甲を連想する。 銀座の表通りを去って、いわゆる金春の横町を歩み、両側ともに今では古びて薄暗くなった煉瓦造りの長屋を見る・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・この暑いのに剣ばかり下げていなければすまないのは可哀想だ。騎兵とは馬に乗るものである。これも御尤には違ないが、いくら騎兵だって年が年中馬に乗りつづけに乗っている訳にも行かないじゃありませんか。少しは下りたいでさア。こう例を挙げれば際限がない・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・ ずうっとずうっと遠くで騎兵の演習らしいパチパチパチパチ塩のはぜるような鉄砲の音が聞えました。そらから青びかりがどくどくと野原に流れて来ました。それを呑んだためかさっきの草の中に投げ出された木樵はやっと気がついておずおずと起きあがりしき・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・ 野原は今は練兵場や粟の畑や苗圃などになってそれでも騎兵の馬が光ったり、白いシャツの人が働いたり、汽車で通ってもなかなか奇麗ですけれども、前はまだまだ立派でした。 九月になると私どもは毎日野原に出掛けました。殊に私は藤原慶次郎といっ・・・ 宮沢賢治 「二人の役人」
・・・一人の娘をカールが肩車にのせ、もう一人の娘をW・リープクネヒトが肩車にのせ、息の切れるほど駈けっこをする「騎兵遊び」はマルクス家専売の大人と子供の遊びであった。娘たちが大きくなってからは、彼女たちのシェークスピアの詩の暗誦仲間であり、バーン・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
出典:青空文庫