・・・然りといえども今の文明の有様にては、充分を希望するはとても六ヶしきことなれば、必ずしも充分にあらずとも、なるべきだけ充分に近づくことの出来るよう、精々注意せざるべからず。余輩が毎に勧むる所の教育とは、即ちこの有様に近づき得るの力を強くするの・・・ 福沢諭吉 「家庭習慣の教えを論ず」
・・・一、旧藩地に私立の学校を設るは余輩の多年企望するところにして、すでに中津にも旧知事の分禄と旧官員の周旋とによりて一校を立て、その仕組、もとより貧小なれども、今日までの成跡を以て見れば未だ失望の箇条もなく、先ず費したる財と労とに報る丈けの・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・ただ企望する所は、仮令いその子を学校に入るるにもせよ、あるいは自宅にて教うるにもせよ、家の都合次第、今時の勢いにては才学に欠点なき父母も少なからん、あるいは家に教師を雇うべき財ある者も少なからんことなれば、やはり一時の姑息にて、よき学校を撰・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・ また、血気の輩が、ただ社会の騒動を企望して変を好み、自己の利益をもかえりみずして妄に殺伐をこととするは、平安の主義にもとるが如くなれども、つまびらかにその内情を察すれば、必ず名利のためより外ならざるを発明すべし。名利とは何ぞや。他なし・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・限なき悔のようにもあり、限なき希望のようにもある。この古家の静かな壁の中から、己れ自身の生涯が浄められて流れ出るような心持がする。譬えば母とか恋人とかいうようないなくなってから年を経たものがまた帰って来たように、己の心の中に暖いような敬虔な・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・また来年の春花がさいた時に、その花の中を鳥の飛ぶのが、如何にも綺麗であろうと思うたのであるが、小鳥どもはその木の葉を一枚一枚むしって、十日もたたぬうちに、木は葉一枚持たぬ坊主になってしもうたので、予の希望は全くはずれたということを知った。こ・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・ 除草、追肥 第一、七組 蕪菁播種 第三、四組 甘藍中耕 第五、六組 養蚕実習 第二組(午后イギリス海岸に於て第三紀偶蹄類の足跡標本を採収すべきにより希望者は参加 そこで正直を申しま・・・ 宮沢賢治 「イギリス海岸」
・・・けれども、この次の作品に期待される発展のために希望するところが全くない訳ではない。 溝口健二は、「愛怨峡」において非常に生活的な雰囲気に重点をおいている。従って、部分部分の雰囲気は画面に濃く、且つ豊富なのであるが、この作の総体を一貫して・・・ 宮本百合子 「「愛怨峡」における映画的表現の問題」
・・・唯或時はその或物を幸福というものだと考えて見たり、或時はそれを希望ということに結び付けて見たりする。その癖又それを得れば成功で、失えば失敗だというような処までは追求しなかったのである。 しかしこの或物が父に無いということだけは、花房も疾・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・それも、今の高田の話そのものだけを事実としてみれば、希望と幻影は同じものだった。「しかし、そんな青年が今ごろ僕の色紙を欲しがるなんて、おかしいね。そんなものじゃないだろう。」 と梶は云った。そして、そう思いもした。「けれども、何・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫