・・・や「乍憚御休神下され度」でこじつけていっても、どうにもこうにも、いかなくなってきた。二、三人目に僕の所へ来たおじいさんだったが、聞いてみると、なんでも小松川のなんとか病院の会計の叔父の妹の娘が、そのおじいさんの姉の倅の嫁の里の分家の次男にか・・・ 芥川竜之介 「水の三日」
・・・ かくのごとき時代閉塞の現状において、我々のうち最も急進的な人たちが、いかなる方面にその「自己」を主張しているかはすでに読者の知るごとくである。じつに彼らは、抑えても抑えても抑えきれぬ自己その者の圧迫に堪えかねて、彼らの入れられている箱・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・さればや一艘の伝馬も来らざりければ、五分間も泊らで、船は急進直江津に向えり。 すわや海上の危機は逼ると覚しく、あなたこなたに散在したりし数十の漁船は、北るがごとく漕戻しつ。観音丸にちかづくものは櫓綱を弛めて、この異腹の兄弟の前途を危わし・・・ 泉鏡花 「取舵」
・・・ イツの時代にも保守と急進とは相対立して互に相反撥し相牽掣する。が、官僚はイツでも保守的であって、放縦危激な民論を控制し調節するが常である。官僚が先へ立って突飛な急進の空気を醸成して民間から反対されたというは滅多に聞かない話であって、伊・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・其作品の中には急進主義者の姿もあれば、時として保守主義者の姿の現われてくる事もある。然しそれ/″\の主義にはそれ/″\の信念があるもので、作品決してそれを見逃がしてはいない。信念の在るところ、容易にその善悪を定めにくい場合が多い。優れた芸術・・・ 小川未明 「囚われたる現文壇」
・・・よい姑と嫁がどうして衝突を、と驚かれ候わんかなれど決してご心配には及ばず候、これには奇々妙々の理由あることにて、天保十四年生まれの母上の方が明治十二年生まれの妻よりも育児の上においてむしろ開化主義たり急進党なることこそその原因に候なれ、妻は・・・ 国木田独歩 「初孫」
・・・また一方で前記の放射状対流渦の立派に現われる場合は、いずれも求心的流動の場合であるから、放電陰像の場合もあるいは求心的な物質の流れがあるのではないかと想像させる。水流の場合には一般に流線の広がる時に擾乱が起こるが流線が集約する時にはそれが整・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・ 例えば物理学者があらゆる物体の複雑な運動を観察して、これを求心運動、等加速運動、正弦運動などに分解してその中の一つを抽出し他を捨象する事によって、そこに普遍的な方則を設定する。物理学教科書にある落体運動は日常生活において目撃するあらゆ・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・ 政談の中に漸進論と急進論なるものあれども、あまり分明なる区別にも非ず。いずれにも進の義は免かれず。ただ、その進の方法を論じたるものならん。これをたとえば、飢たる時に物を喰うは同説なれども、一方は早く喰わんといい、一方は徐々に喰わんとい・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・二氏のごときは正しくこの局に当る者にして、勝氏が和議を主張して幕府を解きたるは誠に手際よき智謀の功名なれども、これを解きて主家の廃滅したるその廃滅の因縁が、偶ま以て一旧臣の為めに富貴を得せしむるの方便となりたる姿にては、たといその富貴は自か・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
出典:青空文庫