・・・代々政治になれている特権者たちは、おだやかさを求めている人々の心を捕えて、自身の強権的な立場へ有利に利用するために、共産主義までをファシズムと同様に「全体主義」という新しい言葉でいいくるめています。 小泉信三氏の『共産主義批判の常識』の・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・愛する日本が、また再び作家にかたことを云わせるような非条理な強権に決して屈することのないように。言論の自由ということは、どんなに人間の社会生活にとって基本的に主張されなければならない重大な権利であるかということについて忘れないために。 ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第五巻)」
・・・異性の友情という、どことなし従来の婦人雑誌のトピック向きな空気の低迷した隅からぬけ出して、もっと心理が強健で、もっと持続性と自主性とをもった両性の友情がはぐくまれて行くことを、私たちは自分たちの生活の現実としての希望としているし、努力してい・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・知ってるかい。狂犬ではないのだ。何かやってひどくいじめられて、首輪のところからつながれていたのを必死に切って逃げて来ているので、ずるずる地面を引ずる荒繩の先は藁のようにそそけ立ってしまっているのであった。 景清は、それからずっとその庭に・・・ 宮本百合子 「犬三態」
・・・ 馬鹿! お前すっかり自分の身をほろぼすんだよ……私たちみんなを滅ぼすんだ!」 ドミトリーは、びっくりして女房を見上げ見下した。「どうしたんだ? 狂犬か? 今日は……」 グラフィーラはたまらなくなって、ドミトリーの足許へ体を投げ・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・ ところが十四年前日本の軍力が東洋において第二次世界大戦という世界史的惨禍の発端を開くと同時に、反動の強権は日本における最も高い民主的文学の成果であるプロレタリア文学運動をすっかり窒息させた。そして、日本の旧い文学は、これまで自身の柱と・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・やっと生きて帰って来た世間が冷たいのも、もとはといえば、不幸な人々を引っぱり出した同じその強権によって、愚弄されて来たことを今日の憤りとしている世間の感情があるからである。 人民同士が互に不幸への憤りを見当違いにぶっつけ合って苦んでいる・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・父がやがて、「気をつけなさい。狂犬だといけないよ」と注意した。 晴子が、「狂犬だって!」と、大笑いに笑って、一層犬に来い、来い、した。「狂犬じゃないわ、お父様これ」「舌出してないから大丈夫よ」「あら狂犬て舌出すの・・・ 宮本百合子 「海浜一日」
・・・ヒューマニズムは、あらゆる人間的なるものを抑圧する強権に抗することを、そして人間性の新たなる主張を支持し、ファシズムに賛成しないものであるが、従来理解されていた意味でのマルクス主義の傾向とは異ったものである。プロレタリア文学ではない、もっと・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・当時、既に正宗白鳥氏その他が現在保護と監視は同義語であるとして、「文学者がさもしい根性を出して俗界の強権者の保護を求めたりするのは藪蛇の結果になりそうに私には想像される」と云った。 文芸院はその後形を変えて「文芸懇話会」となり、文芸院が・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫