・・・そして、狭小、野卑の悪感を催さない。なぜならば、これ、一人の感情ではなかったゝめだ。郷人の意志であり、情熱であった。これを、土と人とが産んだものと見るのが本当であろう。 民謡を都会の舞台に乗せたり、また、職業的詩人をして、一夜造りに、こ・・・ 小川未明 「常に自然は語る」
・・・吉江喬松、中村星湖、加藤武雄、犬田卯等がそれまでの都市文学に反抗していわゆる農民文学を標ぼうした農民文学会をおこした。月々例会を持った。会員は恐らく二三十人もいたであろう。しかし、そこから農民を扱って文学的に実を結んだのは佐左木俊郎一人きり・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・一番聡明善良なるものは分科的専門的にして、自分の関係しようとする範囲をなるべく狭小にし、そして歳月をその中で楽しむ。いわゆる一ト筋を通し、一ト流れを守って、画なら画で何派の誰を中心にしたところとか、陶器なら陶器で何窯の何時頃とか、書なら書で・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・れにはいろう魂胆、そんなばかげた、いや、いや、それもある、けれども、その他にも何か、うむ、押入れには、おまえに見せたくない手紙か何かある故、そんな秘めたるいいことあるくらいなら、おれは、何を好んでこの狭小の家に日がな一日、ごろごろしていよう・・・ 太宰治 「創生記」
・・・この実在の怪物と、たとえばウェルズの描いた火星の人間などを比較しても、人間の空想の可能範囲がいかに狭小貧弱なものであるかを見せつけられるような気がする。 これを見た目で「素浪人忠弥」というのをのぞいて見た。それはただ雑然たる小刀細工や糊・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・相撲好きの人から見たら実にあきれ返るであろうと思われるほどに相撲の世界と自分の世界との接触面は狭小なものである。しかしむしろそういう点で自分らのようなもののこうした相撲随筆も広大な相撲の世界がいかなる面あるいは線あるいは点において他の別世界・・・ 寺田寅彦 「相撲」
・・・こういうふうに、互いに相容れうる範囲内でのあらゆる段階に分化された諸相がこの狭小な国土の中に包括されているということはそれだけでもすでに意味の深いことである。たとえばあの厖大なアフリカ大陸のどの部分にこれだけの気候の多様な分化が認められるで・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・けれども大体の筋からいって、凡てこれらは政府から独立した文芸組合または作家団というような組織の下に案出され、またその組織の下に行政者と協商されべきである。惜いかな今の日本の文芸家は、時間からいっても、金銭からいっても、また精神からいっても、・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・あるいはあらわれていても浅薄で、狭小で、卑俗で、毫も人生に触れておらんからであります。 私は近頃流行する言語を拝借して、人生に触れておらんと申しました。私のいわゆる人生に触れると申す意味は、前段からの議論で大概は御分りになったろうとは思・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
日本語と云うものが、地球上、余り狭小な部分にのみ通用する国語であると云うことは、文筆に携る者にとって、功利的に考えれば、第一、損な立場であると思います。 使用上、所謂、敬語、階級的な感情、観念を現す差別の多いこと、女の・・・ 宮本百合子 「芸術家と国語」
出典:青空文庫