・・・けだし習慣の力は教授の力よりも強大なるものなりとの趣意ならん。子生まれて家にあり、その日夜見習う所のものは、父母の行状と一般の家風よりほかならず。一家の風は父母の心を以て成るものなれば、子供の習慣は全く父母の一心に依頼するものというて可なり・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・高きものあればこそ低きものもあり、強大あればこそ小弱もあり。故に今、婦人の地位を低しというも、男子の地位を引下げて併行するに至らしむれば、男女の権力平等なりというべし。あるいは婦人は今のままにして、男子の地位をして一層の下に就かしむれば、女・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・そこで時々想像力を強大にする策を講ぜなくてはならない。それには苟くも想像力にうぶな、原始的な性能を賦し、新しい活動の強みを与えるような偶然の機会があったら、それを善用しなくてはならないと云うのである。 しかるにこのイソダンの消印のある手・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・思いたえてふり向く途端、手にさわる一蓋の菅笠、おおこれよこれよとその笠手にささげてほこらに納め行脚の行末をまもり給えとしばし祈りて山を下るに兄弟急難とのみつぶやかれて 鶺鴒やこの笠たゝくことなかれ ここより足をかえしてけさ馬車に・・・ 正岡子規 「旅の旅の旅」
・・・その時峠の頂上を、雨の支度もしないで二人の兄弟が通るんだ、兄さんの方は丁度おまえくらいだったろうかね。」 又三郎は一郎を尖った指で指しながら又言葉を続けました。「弟の方はまるで小さいんだ。その顔の赤い子よりもっと小さいんだ。その・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・ 当時トーマス・マンは、「ヨゼフとその兄弟」という作品の執筆中で、原稿があわただしくみすてられたミュンヘンの家にとりのこされたままであった。トーマス・マンのために、このたいせつな原稿は、どうにかしてとり出さなければならない。父を愛するエ・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・原因は、男の強大な主我主義と肉情によって、アンネットは自分が彼の愛人として人格的に陥りかかっている屈辱の深淵を見透し、自分の健康な自尊心をとりかえさずにいられなくなったのであった。――アンネットが確実に彼のものとなった後、彼は、アンネットの・・・ 宮本百合子 「アンネット」
・・・日本の独占資本家たちが、より強大な国際資本におんぶして大衆生活は二の次として生きのびる決心をしてから、それらの人々の近代化は急テンポにすすんだ。日本の港からあがって来た資本主義の独占的な本質にくっついて動くに必要な程度にまでいち早く自身の独・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・横浜へ迎えにゆくというので、その朝は暗いうちに起きて、ラムプの下へ鏡台を出して母は髪を結った。私は当時ハイカラであった白いぴらぴらのついた洋服を着せられて行ったが、船宿へついた時は雨であった。俥で波止場へ向ったが、少し行ったところで俥が逆も・・・ 宮本百合子 「カメラの焦点」
・・・ 現在、私の心を満し、霊魂を輝やかせ、生活意識をより強大にしている愛は、本質に於て不死と普遍とを直覚させています。 けれども、若し、明日、彼を、冷たい、動かない死屍として見なければならなかったら、どうでしょう! 心が息を窒めてし・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
出典:青空文庫