・・・それはいちばん声のいい砲艦で、烏の大尉の許嫁でした。「があがあ、遅くなって失敬。今日の演習で疲れないかい。」「かあお、ずいぶんお待ちしたわ。いっこうつかれなくてよ。」「そうか。それは結構だ。しかしおれはこんどしばらくおまえと別れ・・・ 宮沢賢治 「烏の北斗七星」
・・・鴎外はこの作品において、封建時代の武士のモラル、生活感情のなかで殉死の許可の有る無しはどのような社会的評価と見られる習慣であったか、殉死を許す主君の心理に、経済事情に迄及ぶどんな現実的な臣下への考慮もふくまれたかということなどを、殉死を許さ・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・歴史一般が、今日は重く顧みられているが、それは過去の炬火として今日へ光りをそそぐべきものとして扱われていて、今日の現実の光が過去の現実を明晰にして明日の糧とするという意嚮に立つ面は弱いと思われる。いくつかの文学作品の題材は、過去に求められて・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・一八八三年三月十四日――イエニーの死後三年目の早春に、人類の炬火のかかげ手カール・マルクスはメートランド・パークの家の書斎の肘掛椅子にかけて、六十五年の豊富極まりない一生を閉じた。〔一九四七年一月〕・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・ 第一次大戦終了の後、漸々新婦人協会が治安警察法第五条の改正を議会に請願し、世界の社会情勢に押されて一九二二年その改正建議案は貴衆両院を通過したが、その三年後には当時の内閣が、婦人公民権に対してさえ不許可を声明したのであった。昭和五年と云え・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・ 上演目録詮衡委員会は、一つの自己批判の表現としてこの戯曲の上演を許可したが、ソヴェト同盟の勤労大衆はだまっていなくなった。カーメルヌイ劇場は一月余上演して「赤紫島」はひっこめた。 一九三〇年の秋から帝国主義国のファッショ化に対しソ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・余興は講演とは別に許可をうけ、どれも皆数度公演ずみのものだのに「公安を害す」と禁止した。 現に地方などでは、「働く婦人」を一冊とるだけにさえうるさく妨害しているのであった。「……指導は誰がやっているんですか」 やがて清水が煙草に・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・が終った時、私は外に出たら何よりも先にあなたのところへ出かけてゆき、過去一年間の様々の経験の中から積み重ねた成長の花束を見せて上げたい、見て欲しいと思っていたのですが、公判がすまないうちは面会も手紙も許可されぬ由。其で、この何時お手元に届く・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ [自注1]――この第一信は「不許可」で顕治にわたされなかった。万一のために保存されていたコピイによる。[自注2]叔父上――顕治の父の実弟、山口県熊毛郡光井村にすんでいた。幼時から顕治を非常に愛し、小学校へはこの叔父の家から・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 先生は、ハドソン川から紐育へ入る途中の――島に炬火を捧げて虚空に立って居る自由の女神像を御存じでございます。 又、コロンビアの大図書館の石階を登りつめた中央に、端然と坐して、数千の学徒を観下す、Alma Mater をも御存じでご・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
出典:青空文庫