・・・どんな偉い学者であれ、思想家であれ、運動家であれ、頭領であれ、第四階級な労働者たることなしに、第四階級に何者をか寄与すると思ったら、それは明らかに僭上沙汰である。第四階級はその人たちのむだな努力によってかき乱されるのほかはあるまい。・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・私のこの態度は、全く第三階級に寄与するところがないだろうか。私がなんらかの意味で第三階級の崩壊を助けているとすれば、それは取りもなおさず、第四階級に何者をか与えているのではないかと。 ここに来て私はホイットマンの言葉を思い出す。彼が詩人・・・ 有島武郎 「想片」
・・・若しあすこの土地に人為上にもっと自由が許されていたならば、北海道の移住民は日本人という在来の典型に或る新しい寄与をしていたかも知れない。欧洲文明に於けるスカンディナヴィヤのような、又は北米の文明に於けるニュー・イングランドのような役目を果た・・・ 有島武郎 「北海道に就いての印象」
・・・その間にあって、――毀誉褒貶は世の常だから覚悟の前だが――かの「デカダン論」出版のために、生活の一部を助けている教師の職を、妻の聴いて来た通り、やめられるなら、早速また一苦労がふえるという考えが、強く僕の心に刻まれた。 しかし、その時は・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・椿岳は江戸末季の廃頽的空気に十分浸って来た上に、更にこういう道義的アナーキズム時代に遭逢したのだから、さらぬだに世間の毀誉褒貶を何の糸瓜とも思わぬ放縦な性分に江戸の通人を一串した風流情事の慾望と、淫蕩な田舎侍に荒らされた東京の廃頽気分とが結・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・緑雨が世間からも重く見られず、自らも世間の毀誉褒貶に頓着しなかった頃は宜かったが、段々重く見られて自分でも高く買うようになると自負と評判とに相応する創作なり批評なりを書かねばならなくなるから、苦しくもなり固くもなった。同時に自分を案外安く扱・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・ 凡そ何に由らず社会に存在して文明に寄与するの成績を挙げ得るは経済的に独立するを得てからである。誰やらが『我は小説家たるを栄とす』と声言したのは小説家として立派に生活するを得る場合に於て意味もあり権威もあるので、若し小説家がいつまでも十・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・しかし、それでも書きつづけて行けば、いつかは神に通ずる文学が書けるのだろうか、今は、せめて毀誉褒貶を無視して自分にしか書けぬささやかな発見を書いて行くことで、命をすりへらして行けばいいと思っている。もっとくだらぬ仕事で命をすりへらす人もある・・・ 織田作之助 「文学的饒舌」
・・・ 私の文学は、目下毀誉褒貶の渦中にある。ほめられれば一応うれしいし、けなされれば一応面白くない。しかし一応である。 なぜなら、毀も貶も、誉も褒も、つねに誤解の上に立っていると思うからだ。もっとも、作家というものは結局誤解のくもの巣に・・・ 織田作之助 「私の文学」
・・・ 人間共存のシンパシィと、先人の遺産ならびに同時代者の寄与とに対する敬意と感謝の心とをもって書物は読まるべきである。たとい孤独や、呪詛や、非難的の文字の書に対するときにも、これらの著者がこれを公にした以上は、共存者への「訴えの心」が潜在・・・ 倉田百三 「学生と読書」
出典:青空文庫