・・・その頃でさえ、全露作家協会の共同金庫は、生活に余裕ない作家の生活援助のために保健費を出したり、原稿料の一部の前借を計らったり、消費組合をもって燃料、織物などの共同購入の便宜を計らっていた。一九三〇年頃には便利な食堂も出来ていた。ノビコフ・プ・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・深海に波立たずいつもしーんとして重く悠々たるのは、金庫の中にその生活を深く沈めている人々である。 女のモラルという、目立つのが一倍損というような社会現象をとりあげて語るならば、私たちは、その頽廃を導き出し、放置し、更に救いがたくしてゆく・・・ 宮本百合子 「人間の道義」
・・・ 海老屋では、家事を万事とりしきってしているという年寄り――五十四五になっている先代の未亡人――が会った。 金庫だの箪笥だのを、ズラリと嵌め込みにした壁際に、帳面だの算盤だのをたくさん積み重ねた大机を引きつけて、男のような、といって・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・この人は、犬養首相を射殺して禁固十年の判決をうけ、七年たった昭和十三年に仮出獄したそうです。それからまた不敬罪によって三年間未決にいたときに終戦となりました。その後、故郷の新潟県関山でもと陸軍の演習地であった四十町歩の土地の開墾をはじめ、製・・・ 宮本百合子 「ファシズムは生きている」
・・・その頃の工場には政党も、協同組合も相互扶助金庫もなければ、どんなアジテーションもプロパガンダも行われなかった。」十六歳だったシャポワロフは、原始キリスト教の理想を実現して、貧富の相異が消せるかと思ったのであった。 ゴーリキイがカザンで、・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ その建物全体がそのまま金庫みたいな外観をもっていた。窓に金色の楯に王冠をかぶった獅子と馬とが前脚をかけた例の皇帝紋章が打ってある「大英宝石商会」である。 続いて堅牢な石の外壁に沿って走り乗合自動車は非常な雑踏のまっ只中に止る。そこ・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫