・・・今一いちいち例を挙げていることも出来ないが、大概日本人の妄信はこの時代にうんじょうし出されて近時にまで及んでいるのである。 大体の談は先ずこれまでにして置く。 我国で魔法の類の称を挙げて見よう。先ず魔法、それから妖術、幻術、げほう、・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
近時世界の耳目を聳動せる仏国ドレフューの大疑獄は軍政が社会人心を腐敗せしむる較著なる例証也。 見よ其裁判の曖昧なる其処分の乱暴なる、其間に起れる流説の奇怪にして醜悪なる、世人をして殆ど仏国の陸軍部内は唯だ悪人と痴漢とを・・・ 幸徳秋水 「ドレフュー大疑獄とエミール・ゾーラ」
・・・初生の人類より滴々血液を伝え来れる地球上譜※の一節である。近時諸種の訳書に比較して見よ。如何に其漢文に老けたる歟が分るではない乎。而して其著「理学鈎玄」は先生が哲学上の用語に就て非常の苦心を費したもので「革命前仏蘭西二世紀事」は其記事文の尤・・・ 幸徳秋水 「文士としての兆民先生」
・・・ピンポン大学の学生であるという矜持が、その不思議の現象の一誘因となって居るのである。伝統とは、自信の歴史であり、日々の自恃の堆積である。日本の誇りは、天皇である。日本文学の伝統は、天皇の御製に於いて最も根強い。 五七五調は、肉体化さ・・・ 太宰治 「古典竜頭蛇尾」
・・・日に十里を楽々と走破しうる健脚を有し、獅子をも斃す白光鋭利の牙を持ちながら、懶惰無頼の腐りはてたいやしい根性をはばからず発揮し、一片の矜持なく、てもなく人間界に屈服し、隷属し、同族互いに敵視して、顔つきあわせると吠えあい、噛みあい、もって人・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・彼は独創的な研究によって人間の眼は獣類の眼と入れ替える事が容易で、且つ獣類の中でも豚の眼と兎の眼が最も人間の眼に近似している事を実験的に証明した。彼は或る盲目の女に此の破天荒の手術を試みたのである。接眼の材料は豚の目では語呂が悪いから兎の目・・・ 太宰治 「女人訓戒」
・・・それが、多年の熟練の結果であろうが、はじめひょいと載せただけでもう第一近似的にはちゃんと正しい位置におかれている、それで、あとはただこの団塊をしっかり台板に押しつけ固着させるための操作を兼ねて同時にほんの少しの第二近似を行なうだけである。さ・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・故に各種原因の重要の度を比較して、影響の些少なるものを度外視し、いわゆる「近似」を求むるを常とす。しかしてこれら原因の取捨の程度に応じて種々の程度の近似を得るものと考う。この方法は物理的科学者が日常使用する所にして、学者にとりてはおそらく自・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・ 学者の中には、二つの国語の間の少数な語彙の近似から、大胆に二つのものの因果関係を帰納せんとする人もあるようであり、また一方においてあまりに細心で潔癖なために、暗合の悪戯に欺かれる事を恐れてこの種の比較に面迫することを回避する人もあるか・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・渾沌とした問題を処理する第一着手は先ず大きいところに眼を着けて要点を攫むにあるので、いわゆる第一次の近似である。しかし学者が第一次の近似を求めて真理の曙光を認めた時に、世人はただちに枝葉の問題を並べ立てて抗議を申込む。例えば天気予報などもあ・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
出典:青空文庫