・・・夫こそ先きに世を去る可き順なれば、若し万一も早く夫に別れて、多勢の子供を始め家事万端を婦人の一手に引受くるが如き不幸もあらんには、其時に至り亡人の存命中、戸外に何事を経営して何人に如何なる関係あるや、金銭上の貸借は如何、その約束は如何など、・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・独鈷鎌首水かけ論の蛙かな苗代の色紙に遊ぶ蛙かな心太さかしまに銀河三千尺夕顔のそれは髑髏か鉢叩蝸牛の住はてし宿やうつせ貝 金扇に卯花画白かねの卯花もさくや井出の里鴛鴦や国師の沓も錦革あたまから蒲団かぶ・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・この場合、そのひとの程度ということはもちろん金銭の多寡や地位を意味しているのでないことは明かである。人間成長の内容をさしているのだが、友情についてもそれはいえることだろうと思う。ただ従来、そのひとの程度というとき、個人的な限度で、各人の天質・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・ そこの家には三代唖のひとがいたとか、三人の男の子が唖だとか、それに何か金銭につながった因縁話が絡んで、子供の心を気味わるく思わせる真偽明らかでない話が、その時分きかされていたのであった。 今のこっているのは、原っぱの奥の崖下にあっ・・・ 宮本百合子 「犬三態」
・・・ しかしにぶい日光がその葉の上にただよった時葉の縁には細い細いしかしながらまばゆいばかりの金線が出来てつつましく輝きながら打ち笑む様を見た時に、―――― やがて見て居るうちにはわけのわからない涙がにみじ出して心の中には只嬉しさと謙譲・・・ 宮本百合子 「繊細な美の観賞と云う事について」
・・・かつて他の面で活動をしていた人々が、人間の「胸の琴線にふれる」文学の仕事に転じて来た時、センチメンタルになり、人間の観方、文学的表現等では、非常に抵抗少く過去の文学的常套に伏するのは何故であろうか。こういう経歴の作家に通有な文学に於ける面白・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
出典:青空文庫