・・・傷のところをぎゅっと抑えて歩く。それでも胃の方を引っぱるようで気分がわるい。いい加減で中止。○ バラさん風呂。一人で椅子にかけ、窓の高いところから青い冬空と風にゆられている樹の梢を眺めている。廊下では例によってフランスのお爺さんと毛糸屋・・・ 宮本百合子 「寒の梅」
・・・と瀬戸引の薬罐をぎゅっとみのえの手に持たせた。「お願いだから、あっちへ聞えるように話してよ、ね、油井さん」 みのえは、その続きを聴かずにはいられない。暗闇の中へ座っている彼女の神経は、だから瓦斯の焔そっくり新鮮で色が奇麗で、燃え・・・ 宮本百合子 「未開な風景」
・・・そして、或る夫婦ものとそのとなりの勤人風の男との間にある僅の隙間へ、ぎゅっとわり込んだが、もとより大人一人分には無理なところだから、夫婦ものも迷惑そうにするし、勤人もそりゃ無理だという気持を示した。だが言葉に出しては云わない。すると割込んだ・・・ 宮本百合子 「列のこころ」
・・・ ――ジョーン! 網目へ両手の指三本引かけて鼻をおっつけたまま子供には呼声が聞えもしない。山高をかぶった父親が小戻りして来た。 ――ジョン! ぎゅっと子供の手首を引っぱって網からはがした。彼の背広の襟の折りかえしが糸になって・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫