・・・ けれど、たとえば、宮内寒弥氏はかつて、次のように書いて居られた。「夫婦善哉は、何故か、評判がよくなかったが、大阪のああいう世界を描いた限り、私は傑作だと思った。唯、不幸にして描かれた男女の世界が、当代の風潮に反していたことと、それ・・・ 織田作之助 「東京文壇に与う」
・・・それに一体にこの区内では余り大した事件が無いようだが、そうでもないかね?」「いや、いつだって同じことさ。ちょい/\これでいろんな事件があるんだよ」「でも一体に大事件の無い処だろう?」「がその代り、注意人物が沢山居る。第一君なんか・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・傍に坐っていた番頭は同じ区内の何とかいう店を教えてくれたが、耕吉は廻ってみる勇気もなく、疲れきって帰ってきた。「熊沢蕃山、息、游軒か、……よかったねえ」 編輯室の人たちも耕吉の話を聞いて、笑いはやした。「熊沢蕃山という人のことな・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・さいわい、山崎氏には、浅見、尾崎両氏の真の良友あり、両氏共に高潔俊爽の得難き大人物にして帷幕の陰より機に臨み変に応じて順義妥当の優策を授け、また傍に、宮内、佐伯両氏の新英惇徳の二人物あり、やさしく彼に助勢してくれている様でありますから、まず・・・ 太宰治 「砂子屋」
・・・ 京橋区内では○木挽町一、二丁目辺の浅利河岸○新富町旧新富座裏を流れて築地川に入る溝渠○明石町旧居留地の中央を流れた溝渠。むかし見当橋のかかっていた川○八丁堀地蔵橋かかりし川、その他。 日本橋区内では○本柳橋かかりし薬研堀の溝渠・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
学者安心論 店子いわく、向長屋の家主は大量なれども、我が大家の如きは古今無類の不通ものなりと。区長いわく、隣村の小前はいずれも従順なれども、我が区内の者はとかくに心得方よろしからず、と。主人は以前の婢僕を誉め、・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・この一区に一所の小学校を設け、区内の貧富貴賤を問わず、男女生れて七、八歳より十三、四歳にいたる者は、皆、来りて教を受くるを許す。 学校の内を二に分ち、男女ところを異にして手習せり。すなわち学生の私席なり。別に一区の講堂ありて、読書・数学・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・三十円位で、ガスと水道のある、なるたけ本郷区内という注文をしたのである。 考えて見ると、それから一年位経つか経たないうちに、外国語学校教授で、英国官憲の圧迫に堪えかねて自殺したという、印度人のアタール氏を始めて見たのがその周旋屋の、妙に・・・ 宮本百合子 「思い出すこと」
・・・ 万葉集の立派な写本は宮内府図書寮とかにあってお歌所の長である佐佐木信綱博士しか見られないものだったそうだ。マチスやユトリロの名画は、日ごろは特定の個人に秘蔵されていて、盗まれ横領にあった騒ぎではじめてわれわれ人民の耳目にふれて来る。旧・・・ 宮本百合子 「国宝」
・・・ある区会議員の選挙演説では、当区内の浴場をぜひよく致しますといわれました。こういう選挙演説がアッピールするのは、みんなの要求がそこにあるということの明瞭なしるしです。風呂について、わたしたちの感情は所有慾から利用の慾望に発展して来ているので・・・ 宮本百合子 「社会と人間の成長」
出典:青空文庫