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・・・忙しく諸味を汲み上げるあいまあいまに、山で樹液のしたたる団栗を伐っていることが思い出された。白い鋸屑が落葉の上に散って、樹は気持よく伐り倒されて行く。樹の倒れる音響に驚いて小鳥がけたたましく囀って飛びまわる。……山仕事の方がどれだけ面白いか・・・
黒島伝治
「まかないの棒」
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・・・それを石油カンにさして細い針金を引っぱり石油をランプに汲み上げるときキューキュー一種の音を立てた。そっくりその通りではないが、それに似た音と、トン、トンと間を置く遠い音響が、自分の登っている櫓からばかりでなく数々の櫓の間から何処とも知れず聞・・・
宮本百合子
「石油の都バクーへ」