・・・ といっても、八っちゃんは眼ばかりくりくりさせて、僕の石までひったくりつづけるから、僕は構わずに取りかえしてやった。そうしたら八っちゃんが生意気に僕の頬ぺたをひっかいた。お母さんがいくら八っちゃんは弟だから可愛がるんだと仰有ったって、八・・・ 有島武郎 「碁石を呑んだ八っちゃん」
・・・虱がわいたとかで、つむりをくりくりとバリカンで刈ってしもうた頭つきが、いたずらそうに見えていっそう親の目にかわゆい。妻も台所から顔を出して、「三人がよくならんでしゃがんでること、奈々ちゃんや、鶏がおもしろいかい、奈々ちゃんや」 三児・・・ 伊藤左千夫 「奈々子」
・・・ 一目見て、元気そうな、目のくりくりした子供でしたから、お姉さんも笑って、「いらっしゃい。」と、あいさつをなさいました。 秀ちゃんは、はじめてのお家へきたので、かしこまっていましたが、だんだん慣れると、さっぱりとした性質ですから・・・ 小川未明 「二少年の話」
・・・ しかし、喜美子はそんな綽名をべつだん悲しみもせず、いかにも達磨さんめいたくりくりした眼で、ケラケラと笑っていた。「達磨は面壁九年やけど、私は三年の辛抱で済むのや。」 三年経てば、妹の道子は東京の女子専門学校を卒業する、乾いた雑・・・ 織田作之助 「旅への誘い」
・・・芳本はくりくりした美しい眼を皮肉らしく輝かして言った。「息游軒おるかい?」 芳本の仕事に出た後で、耕吉は寝転んで本など読んでいると、訪ねてきた友人たちがこう言ってはいってくるようになった。一日も早く帰りたいから旅費を送ってくれと言っ・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・暑いころの昼席だと聴衆はほんの四五人ぐらいのこともあった。くりくり坊主の桃川如燕が張り扇で元亀天正の武将の勇姿をたたき出している間に、手ぬぐい浴衣に三尺帯の遊び人が肱枕で寝そべって、小さな桶形の容器の中から鮓をつまんでいたりした。西裏通りへ・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・お腹がふくれると、口が殖える将来を案じて、出来ることなら流産てしまえば可いがと不養生のありたけをして、板の間にじかに坐ったり、出水の時、股のあたりまである泥水の中を歩き廻ったりしたにもかかわらず、くりくりと太った丈夫な男の児が生れた。私・・・ 永井荷風 「深川の散歩」
・・・ 又三郎はまっ黒な眼を少し意地わるそうにくりくりさせながらみんなを見まわしました。けれども上海と東京ということは一郎も誰も何のことかわかりませんでしたからお互しばらく顔を見合せてだまっていましたら又三郎がもう大得意でにやにや笑いながら言・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・あたまをまん中だけ残して、くりくり剃って、恭しく両手を拱いて、陳氏のうしろに立っていました。陳氏は私の行ったのを見ると本当に嬉しかったと見えて、いきなり手を出して、「おめでとう。お早う。いいお天気です。天の幸、君にあらんことを。」とつづ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・肥だちよくくりくりと丸くて、夏の白いベビイ服の短袖から、くびれて可愛い腕がむき出ている。日本でいえば丁度はいはいごろの赤ちゃんである。笑うような、さてまた不思議がるような表情をカメラに向けているあどけなさ。そのあどけなさにひき入れられて、自・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
出典:青空文庫