・・・ 堺氏は「およそ社会の中堅をもってみずから任じ、社会救済の原動力、社会矯正の規矩標準をもってみずから任じていた中流知識階級の人道主義者」を三種類に分け、その第三の範囲に、僕を繰り入れている。その第三の範囲というのは「労働階級の立場を是認・・・ 有島武郎 「片信」
・・・社会問題攻究論者などは、口を開けば官吏の腐敗、上流の腐敗、紳士紳商の下劣、男女学生の堕落を痛罵するも、是が救済策に就ては未だ嘗って要領を得た提案がない、彼等一般が腐敗しつつあるは事実である、併しそれらを救済せんとならば、彼等がどうして相・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・幼弱者虐待防止案といい、欠食児童救済事業といい、このあらわれに他ありません。これとて多数者でなかったら、恐らく見殺しにされて問題とはならなかったでしょう。これは、比較的外面の事実であるが、なほ、焦眉の応策を要するものに、思想問題がありました・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・ しかしそれはわれわれが行為決定の際の倫理的懐疑――それは頭のしんの割れるような、そのためにクロポトキンの兄が自殺したほどの名状すべからざる苦悩であるが――から倫理学によって救済されんことを求めるからであって、そのほかの観点からすれば、・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・長女は、思いやりの深い子であるから、末弟のこの失敗を救済すべく、噴き出したいのを我慢して、気を押し沈め、しずかに語った。「ただいまお話ございましたように、その老博士は、たいへん高邁のお志を持って居られます。高邁のお志には、いつも逆境がつ・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・ひとのことより、まずご自分の救済をして下さい。そうして僕たちに見せて下さい。目立たないことであっても、僕たちは尊敬します。どんなにささやかでも、個人の努力を、ちからを、信じます。むかし、ばらばらに取り壊し、渾沌の淵に沈めた自意識を、単純に素・・・ 太宰治 「花燭」
・・・らしなさ、青臭さを痛感して、未だ少しも自分の形の出来ていないのがわかり、こんな具合では、もういちどはじめから全部やり直さなければなるまい、けれども一体、どこから手をつけて行けばいいのか、途方に暮れて、愚妻の皺の殖えたソバカスだらけの顔を横目・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・私は自分の不安な此の行動に、少年救済という美名を附して、わずかに自分で救われていた。溺れかけている少年を目前に見た時は、よし自分が泳げなくとも、救助に飛び込まなければならぬ。それが市民としての義務だ、と無理矢理自分に思い込ませるように努力し・・・ 太宰治 「乞食学生」
(わが陋屋には、六坪ほどの庭があるのだ。愚妻は、ここに、秩序も無く何やらかやら一ぱい植えたが、一見するに、すべて失敗の様子である。それら恥ずかしき身なりの植物たちが小声で囁き、私はそれを速記する。その声が、事実、聞えるのであ・・・ 太宰治 「失敗園」
・・・低く小さい、鼻よりも、上唇一、二センチ高く腫れあがり、別段、お岩様を気にかけず、昨夜と同じに熟睡うまそう、寝顔つくづく見れば、まごうかたなき善人、ひるやかましき、これも仏性の愚妻の一人であった。 山上通信太宰治 ・・・ 太宰治 「創生記」
出典:青空文庫