・・・両腕を屈伸させてぐりぐりを二の腕や肩につけて見ました。鏡のなかの私は私自身よりも健康でした。私は顔を先程したようにおどけた表情で歪ませて見ました。 Hysterica Passio ――そう云って私はとうとう笑い出しました。 一年中・・・ 梶井基次郎 「橡の花」
・・・そう眼をぐりぐりさせなくっても、背中は洗えそうなものだがね」 圭さんは何にも云わずに一生懸命にぐいぐい擦る。擦っては時々、手拭を温泉に漬けて、充分水を含ませる。含ませるたんびに、碌さんの顔へ、汗と膏と垢と温泉の交ったものが十五六滴ずつ飛・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・この上臂突きにされて、ぐりぐりでも極められりゃア、世話アねえ。復讐がこわいから、覚えてるがいい」「だッて、あんまり憎らしいんだもの」と、吉里は平田を見て、「平田さん、お前さんよく今晩来たのね。まだお国へ行かないの」 平田はちょいと吉・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・そこにつとめながら、そこの仕事を批判していた消極的な自虐性は、平野氏の心理に痼疾的なぐりぐりをこしらえたかのようだ。民主的政治にも、民主的文学にも、おしなべて懐疑的であり、それを存在意義としている氏が、一人の作家に対して、何か癇にさわってい・・・ 宮本百合子 「孫悟空の雲」
・・・ ペンをもっている指先で、ひろ子のおでこをまじないのようにぐりぐりした。「それを云っているのは、俺の方だよ。かんちがえをしないでくれ」 その時分、そろそろ新しい文学の団体も出来かかりはじめていた。十数年前にも一緒に仕事をしていた・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫