・・・ ゆえに今、一国の政治上よりして天下の形成を観察したらば、所望に応ぜざるものも、はなはだ多からん。農を勧めんとして農業興らず、工商を導かんとして景気ふるわず、あるいは人心頑冥固陋に偏し、また、あるいは活溌軽躁に流るる等にて、これを見て堪・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・誠に無慙なる次第なれども、自から経世の一法として忍んでこれを断行することなるべし。 すなわち東洋諸国専制流の慣手段にして、勝氏のごときも斯る専制治風の時代に在らば、或は同様の奇禍に罹りて新政府の諸臣を警しむるの具に供せられたることもあら・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・「オヤオヤ桜の形勢がすっかり違ってしまった。親桜の方は消えてしまって、子桜の方がこんなに大きくなった。これでこの子桜の年が二十二、三位になるはずだ。ヤア松の梢が見える。あの松は自分が土手から引て来て爰処へ植えたのだから、これも二十二、三・・・ 正岡子規 「初夢」
・・・社会の歴史の過程で、女がどういう役割を得てきているかといえば、女らしさという観念を女に向ってつくったのは決して女ではなかった。社会の形成の変遷につれ次第に財産とともにそれを相続する家系を重んじはじめた男が、社会と家庭とを支配するものとしての・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・この根本的な疑問を、それぞれの作家が、どんな歴史の見かたで、どんな歴史のなかで、どんな階級の人として、どんな方法で追究し、芸術化して行ったかが、作品形成の一つの過程である。 きょう作品を読む人々は、自分が現代の日本の現実の中に働いて生き・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・からのち幾多の人間形成の波瀾を経験して、いまジェネヴァに来ている。彼は国際革命家集団に属している。そして、ジェネヴァで、第一次ヨーロッパ大戦のはじまる前後のきわめて切迫した国際情勢にふれる。 やがて、第一次ヨーロッパ大戦にまきこまれたジ・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・文学としてのギリシャ神話は宇宙の壮大と美麗と威力とへの関心を当時の都市の形成を反映している神とその人間ぽい生活感情で形象していて面白い。イギリスの十九世紀初頭の詩人画家であったウィリアム・ブレークが、独特な水色や紅の彩色で森厳に描いた人格化・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・おかしな云い方だが、日本の小説性格形成の過程と、西洋的のとは、根本的に相違があるのではないか。」 大体以上のように武田氏は云われている。 一つの小説が発表されてからめぐり会う運命は、云わば港を出た船のようなものなのだから、それがそれ・・・ 宮本百合子 「現実と文学」
・・・その意識性は、現在大部分がそこに陥っているように商品としての独自性を形成してゆく意企として存在するばかりではないはずである。 私小説的リアリズムを否定したからと云って、いきなりシュール・リアリズムと社会主義的リアリズムとが対決をもとめら・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・ その田地――禰宜様宮田が実に感謝すべき御褒美として、海老屋から押しつけられた――は、小高い丘と丘との間に狭苦しく挾みこまれて、日当りの悪い全くの荒地というほか、どこにも富饒な稲の床となり得るらしい形勢さえも認められないほどのところであっ・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
出典:青空文庫