・・・南は山影暗くさかしまに映り、北と東の平野は月光蒼茫としていずれか陸、いずれか水のけじめさえつかず、小舟は西のほうをさして進むのである。 西は入り江の口、水狭くして深く、陸迫りて高く、ここを港にいかりをおろす船は数こそ少ないが形は大きく大・・・ 国木田独歩 「少年の悲哀」
・・・しかし、これらの藩学校は、藩という制度の枠にはまっていた本質上、当時の身分制度である士農工商のけじめを脱したものではなかった。「士分の子弟」の智能開発が藩学校での目的であった。この性格は、士分のものが来るべき「開化」の担当者であるべきだとい・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・の子は決して自分の寝室に男の友達を入れないという慣習などは、建物の構造が日本とはちがっているという条件からばかりでなく、やはり一方に自由闊達な両性の交際が行われている社会の習慣が、その半面にもっているけじめなのだと思う。 日本の今日の実・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・いまのデカダンスな空気は若い人の一部に、けじめのない男女関係があたりまえという気分をつくり出しています。けれども私たちは人間の男と女であって、他のけだものではありません。性的にだけ生きているのではなく、性をもつ人間として生きているのです。だ・・・ 宮本百合子 「悔なき青春を」
弟の家内が今年の正月で三十三を迎えた。三十三は女の厄年といわれている。 厄年というものを迷信的に考えはしないけれど、たとえば女の子の十六歳、十九歳などという年齢を、何か意味あるけじめのように見ることは、その年頃の生理や・・・ 宮本百合子 「小鈴」
・・・それで個人の抱負と云う様な小さいものでなく、大きく日本人全体としての心構えとでも申しましょうか、それでよろしいでしょうね…… 私達の生きている二十世紀も今年で丁度一九五〇年、真中の一つのけじめにかかりました。去年はアジアにとってきわめて・・・ 宮本百合子 「今年こそは」
・・・林房雄と自身とのけじめは一応明らかにしているようでありながら、本質的には同志林に追随している。作家同盟の指導部は中條のように考えてはいない、君を愛している、「中心指導部の強化」を計らなければ、「同盟の方向が誤りを犯し易い」から、君も「組織活・・・ 宮本百合子 「前進のために」
・・・組織の内のことは、組織の内で解決するべきものだ、ということが、組織の運営についての論議と、文学問題一般についての発言とのけじめなく、プロレタリア作家たる立場として、求められたのだった。 現在、この状態は、一変している。政党が存在している・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・ 自分がやる と、思っていたわけではないが、自分は何となしそうけじめのつけられたことをおどろいた そんな感情○二人の青年はいずれも社会の下積になっていればいるほど、ますます高い目で社会を判断するのであった。世に認められぬ人間は、・・・ 宮本百合子 「バルザック」
・・・ 弁証法的創作方法という過去の旗じるしは、哲学上の規定と文学の方法とのけじめを明らかにしない点に誤謬をもち、様々な段階と気質の作家を直接活々とした創作活動にひき込む役には立たなかった。けれども、社会主義的リアリズムの世界的なスケールにお・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫