・・・こうなっては、いよいよ上木の献策通り、真鍮の煙管を造らせるよりほかに、仕方がない。そこで、また、例の如く、命が住吉屋七兵衛へ下ろうとした――丁度、その時である。一人の近習が斉広の旨を伝えに、彼等の所へやって来た。「御前は銀の煙管を持つと・・・ 芥川竜之介 「煙管」
・・・ 自分は中学の時使った粗末な検索表と首っ引で、その時分家の近くの原っぱや雑木林へ卯の花を捜しに行っていた。白い花の傍へ行っては検索表と照し合せて見る。箱根うつぎ、梅花うつぎ――似たようなものはあってもなかなか本物には打つからなかった。そ・・・ 梶井基次郎 「路上」
・・・三年になると、本科生は書庫の中に入って書物を検索することができたが、選科生には無論そんなことは許されなかった。それから僻目かも知れないが、先生を訪問しても、先生によっては閾が高いように思われた。私は少し前まで、高校で一緒にいた同窓生と、忽ち・・・ 西田幾多郎 「明治二十四、五年頃の東京文科大学選科」
出典:青空文庫