・・・「なに、懐炉を当ててるから……今日はそれに、一度も通じがねえから、さっき下剤を飲んで見たがまだ利かねえ、そのせいか胸がムカムカしてな」「いけないね、じゃもう一度下剤をかけて見たらどうだね!」「いいや、もう少し待って見て、いよいよ・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・ 近頃ある薬学者に聞いた話であるが、薬を盛るのに、例えば純粋な下剤だけを用いると、どうも結果は工合よく行かない、しかし下剤とは反対の効果を生じるような収斂剤を交ぜて施用すると大変工合がよいそうである。つまり人間の体内に耆婆扁鵲以上の名医・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・前者が健胃剤ならば後者は少なくも下剤ぐらいにはならない事はない。 漫画と称すべきものの中でいわゆる時事漫画と称するものがある。新聞雑誌に出るのは主としてこれである。これは私の考えている漫画としてはやや純粋を欠くものである。時代と場所の限・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・大黄の下剤の如きは、二、三時間以上を経過するに非ざれば腸に感応することなし。薬剤の性質、相異なるを知るべし。また、草木に施す肥料の如き、これに感ずるおのおの急緩の別あり。野菜の類は肥料を受けて三日、すなわち青々の色に変ずといえども、樹木は寒・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・ 薄手な素足でこっちへ来て坐りながら、「下剤かけるかしら」 やや心配気に訊いた。私も小声で、「何のんだの」「銀紙のかたまり。……私呑みゃしないってがんばってるんだけど」 第二房へ入れられた男の同志と昨夜十二時頃仕事を・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・作品の客観的な批評という今日での常識さえ、その時分は平林初之輔によって「外在批評」というような表現で提起されるありさまであった。文芸批評はそのころすべて主観に立つ印象批評であったから、在来の日本文学の世界の住人たちの感情にとって、プロレタリ・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・これより先、印象批評に対して、「外在批評」ということが云われており、そのことでも、主張されるところは、文学の評価に何らかの客観的なよりどころを求めるものであったが、蔵原は、ぼんやり客観的と云われていた基準に社会的な内容附けを行った。プレハー・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・世界文学は、プロレタリア文学運動が文学作品の価値評価を主観的な内在的な評価のよりどころから解放して、もっと客観的な社会的な外在的なものにしたことではじめて本質的飛躍をとげました。日本では、この文芸批評の正当な伝統が戦争によっておそろしく中断・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・ プロレタリア文学運動の初期に、平林初之輔によって外在批評の提唱がされ、だんだん客観的・科学的な評価の基準が究明されていった。一九三三年プロレタリア文学運動がまったく抑圧されてしまうころ、まだ日本の進歩的な文学における評価の基準は、しん・・・ 宮本百合子 「両輪」
出典:青空文庫