・・・ 神戸からずっといっしょであった米国の老嬢二人も、コンチャーの家族も、いよいよここで下船して、ジェルサレムへ、エジプトへ、思い思いに別れて行くのであった。老嬢の一人はねんごろに手を握って「またいつか日本で会いましょう」などと言った。・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・だが、今は私は、一銭の傷害手当もなく、おまけに懲戒下船の手続をとられたのだ。 もう、セコンドメイトは、海事局に行っているに違いない。 浚渫船は蒸汽を上げた。セーフチーバルヴが、慌てて呻り出した。 運転手がハンドルを握った。静寂が・・・ 葉山嘉樹 「浚渫船」
・・・ 声をあげて泣き出しそうな心持でスムールイとわかれ、下船した後、ゴーリキイは再び因業な嫁姑のいがみ合っている元の製図師のところで働くことになった。 日夜妻と母親との口論に圧しつけられながら食堂のテーブルに製図板をのせて、ニージニ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫