・・・ 欲いのは――もしか出来たら――偐紫の源氏雛、姿も国貞の錦絵ぐらいな、花桐を第一に、藤の方、紫、黄昏、桂木、桂木は人も知った朧月夜の事である。 照りもせず、くもりも果てぬ春の夜の…… この辺は些と酔ってるでしょう。・・・ 泉鏡花 「雛がたり」
・・・ 超世的詩人をもって深く自ら任じ、常に万葉集を講じて、日本民族の思想感情における、正しき伝統を解得し継承し、よってもって現時の文明にいささか貢献するところあらんと期する身が、この醜態は情ない。たとい人に見らるるの憂いがないにせよ、余儀な・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・である、只資格ある社会の人は其娯楽に理想を持って居らねばならぬ、乍併其理想的娯楽即品位ある娯楽は、修養を持って始めて得るべきものであって、単に金銭の力のみでは到底得ることは出来ぬ、予を以て見れば、現時上流社会堕落の原因は、 幸福娯・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・例えば現時の文学に対しても、露伴を第一人者であると推しながらも、座右に置いたのは紅葉全集であった。近松でも西鶴でも内的概念よりはヨリ多くデリケートな文章味を鑑賞して、この言葉の綾が面白いとかこの引掛けが巧みだとかいうような事を能く咄した。ま・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ 僕はそれ等の作品を目して、セルフがはっきりと出ているからだと云いたい。それは即ち作者が作品を書くに当って何等一点の世俗的観念が入っていないと云うことを証明している。 現時文壇の批評のあるもの、作品のあるものは、作者が筆を執っている・・・ 小川未明 「動く絵と新しき夢幻」
・・・ 若し、現時の我が文壇多くの芸術家が、人道を尊重し、愛を説き、正義に味方することを信念として、尚お、其の実、個人主義的態度を持続するならば、そして、強いて社会主義的精神を曲解し、其の種の運動に対して偏見を有するならば、ヒューズが平和のた・・・ 小川未明 「芸術は革命的精神に醗酵す」
・・・そしてその地図に入間郡「小手指原久米川は古戦場なり太平記元弘三年五月十一日源平小手指原にて戦うこと一日がうちに三十余たび日暮れは平家三里退きて久米川に陣を取る明れば源氏久米川の陣へ押寄せると載せたるはこのあたりなるべし」と書きこんであるのを・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・それから後は親類の家などへ往って、児雷也物語とか弓張月とか、白縫物語、田舎源氏、妙々車などいうものを借りて来て、片端から読んで一人で楽んで居た。併し何歳頃から草双紙を読み初めたかどうも確かにはおぼえません、十一位でしたろうか。此頃のことでし・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・ 源氏物語にも言辞事物の注のほかに深き観念あるを説いて止観の説という。この公の源語の注の孟津抄は、法華経の釈に玄義、文句とありて扨、止観十巻のあるが如く、源氏についての止観の意にて説かれたということである。非常な源氏の愛読者で、「これを・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・ 奈良朝から平安朝、平安朝と来ては実に外美内醜の世であったから、魔法くさいことの行われるには最も適した時代であった。源氏物語は如何にまじないが一般的であったかを語っており、法力が尊いものであるかを語っている。この時代の人は大概現世祈祷を・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
出典:青空文庫