・・・我々の背後にはただ他より優秀なる鑑賞力と、他より超越せる判断力があるのみで、単にこれがためにわが言辞にそれ相応の権威を生ずるのである。 この権威を最後最上の権威であれかしと冀うのは、我々の欲望であって、一般に通ずる事実ではない。これを事・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・『源氏』などの中にも、如何に多くの漢字がそのまま発音を丸めて用いられていることよ。また蕪村が俳句の中に漢語を取り入れた如く、外国語の語法でも日本化することができるかも知れない。ただ、その消化如何にあるのである。・・・ 西田幾多郎 「国語の自在性」
・・・も少し言辞に気をつけて申し上げます。ええ、犬はそれを食べます。ぐんぐん喰べます。お判りですか。又家畜を去勢します。則ち生殖に対する焦燥や何かの為に費される勢力を保存するようにします。さあ、家畜は肥りますよ、全く動物は一つの器械でその脚を疾く・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ だからといって作家同盟の方向が根本的に誤っているとか、または林房雄の憫然たるアナーキー性の爆発的言辞を引用すれば「鎌倉に引込んだ僕の方がプロレタリア的仕事をするから見ていろ」などというに至っては、すでに論外である。 真にプロレタリ・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・また、アメリカ聖教会機関紙『ウイットネス』は、MRAの労資協調論を批評して「美くしい宗教言辞のかげでMRAはなぜ世界最大の財団デュ・ポンの恩寵をうけねばならないのか」と急所をついている。 ジェスチュアでない世界平和と民主的社会の建設のた・・・ 宮本百合子 「再武装するのはなにか」
・・・それは、検事の理解に一致しないすべての証言は、偽証であって、偽瞞であるとこのような独断的、専断的言辞に対して私は心からの憤まんをもっています。」つづいて金被告ものべた。「偽証罪に対する起訴取消を行っていただきたい。」「検事がこのようにすべて・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・ それでもね、じきなおるんですよ。 おととしだか神経衰弱をやったのが癖みたいになってねえ。 源氏物語りなら『御物の化』でもって―― 陽気な声で千世子は笑った、そして手をのばして篤が今まで読んで居た本の頁をわけもなくめくっ・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・私が源氏物語を読んだのは、与謝野さんの訳でではあったが、あの絢爛な王朝文学の、一種違った世界の物語りや、優に艷めかしい插画などが、子供の頭に余程深く印象されたものらしい。そしてそれに動かされて書いたのがこの「錦木」だったのである。その「錦木・・・ 宮本百合子 「昔の思い出」
・・・ 日本文学が、万葉集時代、源氏、枕草子その他の王朝文学から「和泉式部日記」「更級日記」「十六夜日記」の母としての女性、徳川時代の「女大学」の中の女の戒律がその反面に近松門左衛門の作品に幾多の女の悶えの姿を持っていることは、意味深い反省を・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・自然美を十分に味わうべきこと、文芸を心の糧とすべきこと、その文芸も『万葉集』、『源氏物語』のごとき古典に親しむべきこと、連歌や歌の判のことなども心得べきこと、などを説いた後に、実践の問題に立ち入って、人を見る明が何よりも大切であることを教え・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫