・・・現に、最近、教授連が考案した、価値測定器の如きは、近代の驚異だと云う評判です。もっとも、これは、ゾイリアで出るゾイリア日報のうけ売りですが。」「価値測定器と云うのは何です。」「文字通り、価値を測定する器械です。もっとも主として、小説・・・ 芥川竜之介 「MENSURA ZOILI」
・・・「一ツずつ、蜻蛉が別ならよかったんでしょうし、外の人の考案で、あの方、ただ刺繍だけなら、何でもなかったと言うんです。どの道、うつくしいのと、仕事の上手なのに、嫉み猜みから起った事です。何につけ、かにつけ、ゆがみ曲りに難癖をつけないではお・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・ 硝子のインキスタンドが大嫌いで、先生はわざわざ自身で考案して橋口に作らせたことがある。ところがその出来上ったインキスタンドは実に嫌な格好の物で、夏目さん自身も嫌で仕様がないとこぼしておられたことを記憶している。 左様、原稿紙も支那・・・ 内田魯庵 「温情の裕かな夏目さん」
・・・政治界でも実業界でも爺さんでなければ夜も日も明けない老人万能で、眼前の安楽や一日の苟安を貪る事無かれ主義に腰を叩いて死慾ばかり渇いている。女学校を出たてのお嬢さんが結婚よりも女の独立を主張し、五十六十のお婆さんまでが洋服を着て若い女と一緒に・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・それらには野趣があるし、又粗野な、時代に煩わされない本能や感情が現われているからそれでいいけれど、所謂その時代の上品な詩歌や、芸術というものは、今から見ると、別に深い生活に対する批評や考案があったものとも思われないものが多い。それは詩歌のみ・・・ 小川未明 「詩の精神は移動す」
・・・ 実地に就ての益に立つ考案は出ないで、こうなると種々な空想を描いては打壊わし、又た描く。空想から空想、枝から枝が生え、殆んど止度がない。 痴情の果から母とお光が軍曹に殺ろされる。と一つ思い浮かべるとその悲劇の有様が目の先に浮んで来て・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・ その生涯のきわめて戯曲的であった日蓮は、その死もまた牧歌的な詩韻を帯びたものであった。 弘安五年九月、秋風立ち初むるころ、日蓮は波木井氏から贈られた栗毛の馬に乗って、九年間住みなれた身延を立ち出で、甲州路を経て、同じく十八日に武蔵・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・そんなことを云っているより勢いよくサッと飲んで、そしていい考案でも出してくれなくちゃあ困るよ。「いいサ、飲むことはこの通りお達者だ、案じなさんな。児を棄てる日になりゃア金の茶釜も出て来るてえのが天運だ、大丈夫、銭が無くって滅入ってしまう・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・という名前も、三男がひとりで考案して得意らしく、表紙も、その三男が画いたのですけれども、シュウル式の出鱈目のもので、銀粉をやたらに使用した、わからない絵でありました。長兄は、創刊号に随筆を発表しました。「めし」という題で、長兄が、それを・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・そのときの私には、深田氏訪問以上の仕合せを考案しているいとまがなかった。雨はあがり、雲は矢のように疾駆し、ところどころ雲の切れま、洗われて薄い水いろの蒼空が顔を見せて、風は未だにかなり勁く、無法者、街々を走ってあるいていたが、私も負けずに風・・・ 太宰治 「狂言の神」
出典:青空文庫