・・・ 制限 天才もそれぞれ乗り越え難い或制限に拘束されている。その制限を発見することは多少の寂しさを与えぬこともない。が、それはいつの間にか却って親しみを与えるものである。丁度竹は竹であり、蔦は蔦である事を知ったように。・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・自分がその拘束に苦しみ切っていながら、依然として他を拘束しつつある。 四 土屋の家では、省作に対するおとよの噂も、いつのまにか消えたので大いに安心していたところ、今度省作が深田から離縁されて、それも元はおとよとの関・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・椿年は南岳の弟子で、南岳は応挙の高足源に学んだのだから、椿岳は応挙の正統の流れを汲んだ玄孫弟子であった。 馬喰町時代の椿岳の画は克明に師法を守って少しも疎そかにしなかった。その時代の若書きとして残ってるもの、例えば先年の椿岳展覧会に出品・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・しかし、いまは、この重圧のために、空想を、想像を、拘束されているではないか。 人類の真の平和が、強権下には、決して、見られないであろうごとく、主義に囚えられたる芸術に、いつの日か、吾人は、人生に対する自由の使徒たることを信じ得よう。・・・ 小川未明 「単純化は唯一の武器だ」
・・・ 由来人間にはその時代に束縛せられず、又階級に拘束されずして、昔も今も人として立って行くべき上に、美くしい事、正しい事の感激がある。たゞその感激の表われが時代によっては違う。とにかくすべての人間は自然の上に対してある感激を有する。この美・・・ 小川未明 「人間性の深奥に立って」
・・・つまり、その戦争は、主として、封建的専制主義及び外国の支配拘束を取り除くことであった。それは進歩的戦争であった。又、イギリスに対して若し××が戦争を始めるとしたら、それは正当な、必要な戦争である。抑圧者、搾取者に対する、被圧迫階級の戦争には・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・われら人間が、ひとりこの拘束をまぬがれることができようか。 いな、人間の死は、科学の理論を待つまでもなく、実に平凡なる事実、時々刻々の眼前の事実、なんびともあらそうべからざる事実ではないか。死のきたるのは、一個の例外もゆるさない。死に面・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・Freiheit とは、とらわれない、拘束されない、素朴のものを指していうのです。frei でない例は、卑近な所に沢山あるが、多すぎてかえって挙げにくい。たとえば、僕のうちの電話番号はご存じの通り4823ですが、この三桁と四桁の間に、コンマ・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・すなわち、「芸術は常に一の拘束の結果であります。芸術が自由であれば、それだけ高く昇騰すると信ずることは、凧のあがるのを阻むのは、その糸だと信ずることであります。カントの鳩は、自分の翼を束縛する此の空気が無かったならば、もっとよく飛べるだろう・・・ 太宰治 「鬱屈禍」
・・・ それで私はすべての歌人に望むように宇都野さんの場合にも、どうかあまりに頭のいい自己批評から作歌の上に拘束を加えて、鮮明な自然の顔の輪郭が多少でも崩されるような事のないように祈りたいと思う。 もう一つ特に私が宇都野さんに望む所は、時・・・ 寺田寅彦 「宇都野さんの歌」
出典:青空文庫