・・・誰も君を、後輩だなんて思ってやしない。君が、ひとりで勝手に卑屈になっているだけじゃないか。」 少年は草原に寝ころび眼をつぶったまま、薄笑いして聞いていたが、やがて眼を細くあけて私の顔を横眼で見て、「君は、誰に言っているんだい。僕にそ・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・つまり、私たちの先輩という者は、私たちが先輩をいたわり、かつ理解しようと一生懸命に努めているその半分いや四分の一でも、後輩の苦しさについて考えてみたことがあるだろうか、ということを私は抗議したいのである。 或る「老大家」は、私の作品をと・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・先生の失敗は、私たち後輩への佳き教訓になるような気がすると、前回に於いても申述べて置いた筈であるが、そんなら一体どんな教訓になるのか、一言でいえば何か、と詰寄られると、私は困却するのである。人間、がらでない事をするな、という教訓のようでもあ・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・黄村先生とは、どんな御人物であるか、それに就いては、以前もしばしば御紹介申し上げた筈であるから、いまは繰り返して言わないけれども、私たち後輩に対して常に卓抜の教訓を垂れ給い、ときたま失敗する事があるとはいうものの、とにかく悲痛な理想主義者の・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・またかつて私たちの敬愛の的であった田舎親爺の大政治家レニンも、常に後輩に対し、「勉強せよ、勉強せよ、そして勉強せよ」と教えていた筈であります。教養の無いところに、真の幸福は絶対に無いと私は信じています。 私はいまジャーナリズムのヒステリ・・・ 太宰治 「返事」
・・・ と、竹藪にかこまれ、荒廃した病院のような感じの彼のアパートに導かれた時には、すでにあたりが薄暗くなり、寒気も一段ときびしさを加えて来たように思われた。 彼の部屋は、二階に在った。「お母さん、ただいま。」 彼は部屋へ入るなり・・・ 太宰治 「女神」
・・・ふもとのほうから迎いに来た自動車の前面のガラス窓に降灰がまばらな絣模様を描いていた。 山をおりる途中で出会った土方らの中には目にはいった灰を片手でこすりながら歩いているのもあった。荷車を引いた馬が異常に低く首をたれて歩いているように見え・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・というのは、何より適切に噴火のために草木が枯死し河海が降灰のために埋められることを連想させる。噴火を地神の慟哭と見るのは適切な譬喩であると言わなければなるまい。「すなわち天にまい上ります時に、山川ことごとに動み、国土皆震りき」とあるのも、普・・・ 寺田寅彦 「神話と地球物理学」
・・・おそらく聡明な彼の目には、なお飽き足らない点、補充を要する点がいくらもありはしないかという事は浅学な後輩のわれわれにも想像されない事はない。 自己批評の鋭いこの人自身に不満足と感ぜらるる点があると仮定する。そしてそれらの点までもなんらの・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・ 遊里の存亡と公娼の興廃の如きはこれを論ずるに及ばない。ギリシャ古典の芸術を尊むがために、誰か今日、時代の復古を夢見るものがあろう。甲戌十二月記 永井荷風 「里の今昔」
出典:青空文庫