発電所の掘鑿は進んだ。今はもう水面下五十尺に及んだ。 三台のポムプは、昼夜間断なくモーターを焼く程働き続けていた。 掘鑿の坑夫は、今や昼夜兼行であった。 午前五時、午前九時、正午十二時、午後三時、午後六時には取・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・事は新発明新工夫に非ず。成功の時機正に熟するものなり。一 言葉を慎みて多すべからず。仮にも人を誹り偽を言べからず。人の謗を聞ことあらば心に納て人に伝へ語べからず。譏を言伝ふるより、親類とも間悪敷なり、家の内治らず。 ・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・といろいろ工夫をする場合に、誰か余所で会った人とか、自分の予て知ってる者とかの中で、稍々自分の有ってる抽象的観念に脈の通うような人があるものだ。するとその人を先ず土台にしてタイプに仕上げる。勿論、その人の個性はあるが、それは捨てて了って、そ・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・もうよほど前からこの男は自己の思索にある節制を加えることを工夫している。神学者にでも言わせようものなら、「生産的静思」なんぞと云うだろう。そう云う態度に自身を置くことが出来るように、この男は修養しているのである。オオビュルナン先生はこんな風・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・という形容語を添えて、ことさらに重複せしめたるは、霜の白さを強く現さんとの工夫なり。その成功はともかくも、その著眼の高きことは争うべからず。 曙覧は擬古の歌も詠み、新様の歌も詠み、慷慨激烈の歌も詠み、和暢平遠の歌も詠み、家屋の内をも歌に・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・ 斉田もはっきり目をあいていて低く鉱夫だなと云った。富沢は手をふって黙っていろと云った。こんなときものを云うのは老人にどうしても気の毒でたまらなかった。 外ではいよいよ暴れ出した。とうとう娘が屏風の向うで起きた。そしてとどうやらこっ・・・ 宮沢賢治 「泉ある家」
・・・「手に入れる工夫はないだろうか。」「ないわけでもないだろう。ただ僕たちのはヘロンのとは大きさも型も大分ちがうから拵え直さないと駄目だな。」「うん。それはそうさ。」 さて雲のみねは全くくずれ、あたりは藍色になりました。そこでベ・・・ 宮沢賢治 「蛙のゴム靴」
・・・一郎はまるで坑夫のようにゆっくり大股にやってきて、みんなを見て「何した」とききました。みんなははじめてがやがや声をたててその教室の中の変な子を指しました。一郎はしばらくそっちを見ていましたがやがて鞄をしっかりかかえてさっさと窓の下へ行きまし・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・ すると向こうの淵の岸では、下流の坑夫をしていた庄助が、しばらくあちこち見まわしてから、いきなりあぐらをかいて砂利の上へすわってしまいました。それからゆっくり腰からたばこ入れをとって、きせるをくわえてぱくぱく煙をふきだしました。奇体だと・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・それにおれには鉱夫どもにさえ馬鹿にはされない肩や腕の力がある。あんなひょろひょろした若造にくらべては何と云ってもおみちにはおれのほうが勝ち目がある。(おみち、ちょっとこさ来嘉吉が云った。 おみちはだまって来て首を垂れて座った。(・・・ 宮沢賢治 「十六日」
出典:青空文庫