・・・の発達によって次第に明らかになって来たとおり、固体ことにガラスや陶器などの表面にはガスのみならずある種類の液体や固体の薄膜を頑固に付着せしめる性質がある。そうして、普通人間の手に触れる物体は自然に油脂類のそういう皮膜でおおわれていて、それを・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・そういう外部の物理的化学的条件だけではなくて、もっと大切な各樹個体に内在する条件があるのではないかと素人考えにも想像されるのであった。もちろん生物学をよく知らない自分にはほんとうのことはわからない。 この銀杏でもプラタヌスでも、やはり一・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・ 人間のごとき最高等な動物でも、それが多数の群集を成している場合について統計的の調査をする際には、それらの人間の個体各個の意志の自由などは無視して、その集団を単なる無機的物質の団体であると見なしても、少しもさしつかえのない場合がはなはだ・・・ 寺田寅彦 「物質群として見た動物群」
・・・また昔レーリー卿が紅茶茶わんをガラス板の上ですべらせてみて、ガラスのよごれ方でひどく摩擦のちがうことを見て考え込んでいたことがあるが、これは近年になって固体や液体の表層に吸着した単分子層の研究の先駆をなしたものであった。これと似寄ったことで・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・ 液体静力学の実験例えば浮秤で水や固体の比重を測る時でも、毛管現象が如何に多大の影響を有するかという事を見せるために、液面に石鹸の片を触れて比重系の浮上がる様を見せる事なども必要と思う。あるいは夏季水道の水を汲んだままで実験していると溶・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・重力の方則は海王星の軌道以内には適用されるが、固体分子間の距離においても同様であろうか。この距離においては吾人は種々の場合に別の方則に従う凝集力を考えたくなる。この凝集力と重力とは如何なる関係があるだろうか。荷電導体内部における電場の零なる・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・要するに普通の詩歌の相次ぐ二句は結局一つの有機的なものの部分であり、個体としての存在価値をもたないものであるが、連句の二句は、明白に二つの立派な独立な個体であって、しかもその二つの個体自身の別々の価値のみならず、むしろ個体と個体との接触によ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・放翁は古体今体を混じて千以上の詩篇を作りしにあらずや。ただ驚くべきは蕪村の作が千句ことごとく佳句なることなり。想うに蕪村は誤字違法などは顧みざりしも、俳句を練る上においては小心翼々として一字いやしくもせざりしがごとし、古来文学者のなすところ・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・わが心に銘じる悲しみが深きにつれて、文学はその悲しみを追求することによって、単なる悲しみから立ち上った人間精神の美を発見し、美を感じ生みだすことによって、個体の経験を社会の富に転化して、そこから成長しきるのである。が、一つの悲しみ、一つのよ・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・現代の民主的、または社会主義的文学は、リアリティーの把握を、現象と現象との間にある個体的連関の理解という範囲からひろげた。現象の個別的必然の底によこたわる社会的・階級的な歴史の必然をその実感の範囲にとりこむところまでのびてきている。個々の作・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
出典:青空文庫