・・・渠に魅入たらんごとく、進退隙なく附絡いて、遂にお通と謙三郎とが既に成立せる恋を破りて、おのれ犠牲を得たりしにもかかわらず、従兄妹同士が恋愛のいかに強きかを知れるより、嫉妬のあまり、奸淫の念を節し、当初婚姻の夜よりして、衾をともにせざるのみな・・・ 泉鏡花 「琵琶伝」
・・・ マルクスが問うてみせるまで、常人はそれほどにも自分らの禍福の根因であるこの問いを問うことができなかった。 天才の書によってわれわれは自分の力では開き得ない宇宙と人間性との奥深き扉をのぞき得るのである。それは最も深き意味での人間教育であ・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・民法親族編第七百七十一条に、子カ婚姻ヲ為スニハ其家ニ在ル父母ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス但男ハ満三十年女ハ満二十五年ニ達シタル後ハ此限ニ在ラスとあり。婚姻は人間の大事なれば父母の同意即ち其許なくては叶わず、なれども父母の意見を以て・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・すなわちその路とは他なし、今の学校を次第に盛にすることと、上下士族相互に婚姻するの風を勧ることと、この二箇条のみ。 そもそも海を観る者は河を恐れず、大砲を聞く者は鐘声に驚かず、感応の習慣によって然るものなり。人の心事とその喜憂栄辱との関・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・直に前議を廃して第二者を探索するの例なれば、外国人などが日本流の婚姻を見て父母の意に成ると言うは、実際を知らざる者の言にして取るに足らず。譬えば封建の時代に武家は百姓町人を斬棄てると言いながら実際に斬棄てたる者なきが如く、正式に名を存するの・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・のみならず習俗の禁ぜざる所なれば、社会の上流良家の主人と称する者にても、公然この醜行を犯して愧ずるを知らず、即ち人生居家の大倫を紊りたるものにして、随って生ずる所の悪事は枚挙に遑あらず、その余波引いて婚姻の不取締となり、容易に結婚して容易に・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ すべてこれ人間の私情に生じたることにして天然の公道にあらずといえども、開闢以来今日に至るまで世界中の事相を観るに、各種の人民相分れて一群を成し、その一群中に言語文字を共にし、歴史口碑を共にし、婚姻相通じ、交際相親しみ、飲食衣服の物、す・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・ ――これで一つ思いついた 持参金をうんと貰った男に「君の婚姻届には収入印紙がいるね」 花袋 まあ、一寸小説もよむ 田山花袋の口やね 或文学青年 詩の話 活動 ナナ、ボージ・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・ 先ず婚姻の問題が、「家」の問題でなくて、当事者である男女の問題として扱われるようになった。「家」は、家庭を単位として扱われることになり、そこには夫と妻と子供たちとのひとかたまりが、基本として考えられるようになった。「家」の嫁は、はっき・・・ 宮本百合子 「離婚について」
・・・内容は婚姻。離婚。親子。家。相続。各巻をなしていずれも、今日に至るまでの社会の歴史の発達の面からの史論と、現在行われているそれぞれに関係の法律の解説とがされている。第三巻親子までが出版された。執筆者がそれぞれの専門家であり、一般の読者を考え・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
出典:青空文庫