・・・――神職様、小鮒、鰌に腹がくちい、貝も小蟹も欲しゅう思わんでございましゅから、白い浪の打ちかえす磯端を、八葉の蓮華に気取り、背後の屏風巌を、舟後光に真似て、円座して……翁様、御存じでございましょ。あれは――近郷での、かくれ里。めった、人の目・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・それは、よく廻った独楽が完全な静止に澄むように、また、音楽の上手な演奏がきまってなにかの幻覚を伴うように、灼熱した生殖の幻覚させる後光のようなものだ。それは人の心を撲たずにはおかない、不思議な、生き生きとした、美しさだ。 しかし、昨日、・・・ 梶井基次郎 「桜の樹の下には」
・・・勝軍地蔵は日本製の地蔵で、身に甲冑を着け、軍馬に跨って、そして錫杖と宝珠とを持ち、後光輪を戴いているものである。如何にも日本武士的、鎌倉もしくは足利期的の仏であるが、地蔵十輪経に、この菩薩はあるいは阿索洛身を現わすとあるから、甲を被り馬に乗・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・こういうふうに考えて来ると学問の素材の供給者が実に貴いものとして後光を背負って空中に浮かみ上がり、その素材をこねてあまり上できでもない品物をひねり出す陶工のほうははなはだつまらぬ道化者の役割のようにも思われて来るのである。 そうかと言っ・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・ 明治五年申五月六日 京都三条御幸町の旅宿松屋にて福沢諭吉記 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・ はるかな西の碧い野原は、今泣きやんだようにまぶしく笑い、向こうの栗の木は青い後光を放ちました。 みんなはもう疲れて一郎をさきに野原をおりました。わき水のところで三郎はやっぱりだまって、きっと口を結んだままみんなに別れて、じぶんだけ・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・見ると、もうじつに、金剛石や草の露やあらゆる立派さをあつめたような、きらびやかな銀河の河床の上を水は声もなくかたちもなく流れ、その流れのまん中に、ぼうっと青白く後光の射した一つの島が見えるのでした。その島の平らないただきに、立派な眼もさめる・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・ はるかの北上の碧い野原は、今泣きやんだようにまぶしく笑い、向うの栗の木は、青い後光を放ちました。 宮沢賢治 「種山ヶ原」
・・・小十郎はまるでその二疋の熊のからだから後光が射すように思えてまるで釘付けになったように立ちどまってそっちを見つめていた。すると小熊が甘えるように言ったのだ。「どうしても雪だよ、おっかさん谷のこっち側だけ白くなっているんだもの。どうしても・・・ 宮沢賢治 「なめとこ山の熊」
・・・お前には善い事をしていた人の頭の上の後光が見えないのだ。悪い事をしたものなら頭の上に黒い影法師が口をあいているからすぐわかる。お星さま方。こちらへお出で下さい。王の所へご案内申しあげましょう。おい、ひとで。あかりをともせ。こら、くじら。あん・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
出典:青空文庫