・・・お前にこにこ笑いなどして、ほんとに笑いごっちゃねいじゃねいか」 母に叱られて省作もねころんではいられない。「おッ母さんに心配かけてすまねいけど、おッ母さん、とてもしようがねんですよ。あんだっていやにあてこすりばかり言って、つまらん事・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・い油屋があったり、赤い暖簾の隙間から、裸の人が見える銭湯があったり、ちょうど大阪の高台の町である上町と、船場島ノ内である下町とをつなぐ坂であるだけに、寺町の回顧的な静けさと、ごみごみした市井の賑かさがごっちゃになったような趣きがありました。・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・たぶん文五郎と栄三をごっちゃにしたのだろう。おまけに文楽が文薬となっており、東京の帝国大学を出た人にこんな人がざらにいるとすれば、ほんとうにおかしな、由々しいことだと、私は眼玉をくるくる動かして腹を立てていた。散々待たせて、あの人はのそっと・・・ 織田作之助 「天衣無縫」
・・・見つめていると、代々木の娘、女学生、四谷の美しい姿などが、ごっちゃになって、縺れ合って、それが一人の姿のように思われる。ばかばかしいと思わぬではないが、しかし愉快でないこともない様子だ。 午後三時過ぎ、退出時刻が近くなると、家のことを思・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・その点では兄も妹も別々で、まともな心持の若いものはかえって兄と妹とのグループをごっちゃにして外で遊ぶというようなことはしないらしい。 従って何か特別な社会環境にいる人でない限り、互の接触はたいへん稀れなことになり、友情という広汎な感情で・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・すなわち、権力が悪用しようとするすべての悪法への嫌悪と、それにあくまで抵抗してゆく民主的理論についてゆくことをこわく思う個人の心とを、ごっちゃにして歴史の前進と自身の運命を混乱させてはならないという教訓である。幸、この教訓は、きょうの人々の・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・そして、たまに音楽の中継なども聴かすのであるが、どういうセットをつかっているのであるか、私のいた方のラジオでは第一放送と第二放送とがごっちゃになって聞えた。新響の放送であろうと思われるような交響楽が鳴り出して、諧調ある美しい音に神経が突然快・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・こんな一寸した下らない事で又私の頭はごっちゃごっちゃにかきまわされてしまった。居ても立っても居られない。 私は柱にドスンドスンと体をぶっつけながら涙をこぼして居る。「又一日ねころんで居なくっちゃあなるまい、子供なんて……、どうしたっ・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
「幻滅」より。又それからの連想○二人の友は 未来に輝く二人の運命を全くごっちゃにして考えていた。 よしや輝やかないにしろ、そういうことはある。 十三年 執筆の出来なかったとき 自分ものを売った。・・・ 宮本百合子 「バルザック」
・・・ 京の女は砂糖づけかあめのようで、東の女達はさんしょの様なすっきりとしたピンとしたところが有る、とは昔からきまった相場であるけれ共、この頃は江戸っ子と椋鳥とごっちゃになって九州のはての人と北海道の人とごっちゃになってしまったので東京・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫