・・・三吉は首をふって、ごまかすために自分の本箱のところへいって、小野からの手紙などとって、仕事場にもどってくる。――どうして、若い女にみられるのが、こんなにはずかしいだろう? 手紙をよみかえすふりして、三吉は考えている。竹細工の仕事は幼少か・・・ 徳永直 「白い道」
・・・ その人はあわてたのをごまかすように、わざとゆっくり川をわたって、それからアルプスの探検みたいな姿勢をとりながら、青い粘土と赤砂利の崖をななめにのぼって、崖の上のたばこ畑へはいってしまいました。 すると三郎は、「なんだい、ぼくを・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・その人は、あわてたのをごまかすように、わざとゆっくり、川をわたって、それから、アルプスの探険みたいな姿勢をとりながら、青い粘土と赤砂利の崖をななめにのぼって、せなかにしょった長いものをぴかぴかさせながら、上の豆畠へはいってしまった。ぼくらも・・・ 宮沢賢治 「さいかち淵」
・・・ そして工合のわるいのをごまかすように、「ええと、我輩はこれで失敬する。みんな充分やってくれ給え。」と勢よく云いながら、すばやく野原のなかへ走りました。 するとテーモも夏フロックもそのほか四五人急いであとを追いかけて行ってしまい・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・民主なる文学ということは、私たち一人一人が、社会と自分との歴史のより事理にかなった発展のために献身し、世界歴史の必然な働きをごまかすことなく映しかえして生きてゆくその歌声という以外の意味ではないと思う。 そして、初めはなんとなく弱く、あ・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・このことにこそ、人民の要求のごまかすことのできない力が示された。トルーマンが公約した民主的政策が実現されるか、それともブルジョア政党らしいジェスチュアに終るかということに対して注目し監視しているのは、アメリカの民衆ばかりではないのである。・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・ 真実の愛に立たない分別ある結婚から、男も女もやがてどの位相手をあざむき、自身をごまかす副次結婚や恋愛に陥っているだろう。若い愛がまともに達成されず、途中で挫かれ、初々しい真摯さを愚弄されるために、いかほど、人間への信頼を失って肉体と精・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・ 病苦は号泣や哀訴によってごまかすことはできても、全然逃避し得る性質のものでない。しかし精神的な生の悩みは、露出させる事によってごまかし得るほかに、また全然逃避することもできるのである。 ある内的必然によって意志を緊張させた場合を想・・・ 和辻哲郎 「ベエトォフェンの面」
出典:青空文庫