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ある午後「高いとこの眺めは、アアッ(と咳また格段でごわすな」 片手に洋傘、片手に扇子と日本手拭を持っている。頭が奇麗に禿げていて、カンカン帽子を冠っているのが、まるで栓をはめたように見える。――そんな老・・・
梶井基次郎
「城のある町にて」
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・・・「この辺は、まるで焼石と砂ばかりのようなものでごわす。上州辺と違って碌な野菜も出来やせん」 と音吉が言った。 彼は持って来た馬鈴薯の種を植えて見せ、猶、葱苗の植え方まで教えた。 この高瀬が僅かばかりの野菜を植え試みようとした・・・
島崎藤村
「岩石の間」