・・・ 多くの伝記者は、バルザックが常に好んで「私の借金、私の債権者ども」と云ったことを記録している。彼は、この二つのものの中に、彼の大きい真情を傾けて敬愛しているベルニィ夫人と母までをこめて、考えねばならぬ端目になった。ブルターニュの昔から・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・リアリズムは、社会現象としてのロマンティシズム、シュール・リアリズムを、そのような生活感覚に分裂をおこさせる根源にさかのぼって分析し、人間理性の歪曲に抵抗して、新しい人間性の再建に向う精力を蔵している。 シェークスピアのリアリズムは、彼・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・政府が人民生活を再建出来ないでインフレーションの波のまにまに、当選したかと思うと、たちまち選挙違反で検挙されるような代議士の頭数ばかりあつめて、大臣病にきゅうきゅうとしているとき、もし私たち婦人が、心から自分の運命を守ってたち上らないならば・・・ 宮本百合子 「求め得られる幸福」
・・・出来るだけどっさり買わせられる債券の消化に心を砕いていたのであった。こうして見れば若い婦人――生産面へ直接吸収された婦人達がさまざまの想いをしながら生きていた間に、年とった家の女性たちもやはり涙を抑え、歎息を笑顔にかえて生きぬいていたのであ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・お蝶が死んだら、債権者も過酷な手段は取るまい。佐野も東京には出て見たが、神経衰弱の為めに、学業の成績は面白くなく、それに親戚から長く学費を給してくれる見込みもないから、お蝶が切に願うに任せて、自分は甘んじて犠牲になる。」書いてある事は、ざっ・・・ 森鴎外 「心中」
出典:青空文庫