・・・こう云う柔かい美しさは一寸他の作家達には発見出来ない。僕はそこに若々しい一本の柳に似た感じを受けている。 いつか僕は仕事をしかけた犬養君に会った事があった。その時僕の見た犬養君の顔は女人と交った後のようだった。僕は犬養君を思い出す度にか・・・ 芥川竜之介 「犬養君に就いて」
・・・彼は敷島をふかしながら、当然僕等の間に起る愛蘭土の作家たちの話をしていた。「I detest Bernard Shaw.」 僕は彼が傍若無人にこう言ったことを覚えている、それは二人とも数え年にすれば、二十五になった冬のことだった。…・・・ 芥川竜之介 「彼 第二」
・・・もし、現在の作家の中に、例を引いてみるならば、泉鏡花氏のごときがその人ではないだろうか。第二の人は、芸術と自分の実生活との間に、思いをさまよわせずにはいられないたちの人である。自分の芸術に没入することは、第一の人のようにあることはどうしても・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・歌は――文学は作家の個人性の表現だということを狭く解釈してるんだからね。仮に今夜なら今夜のおれの頭の調子を歌うにしてもだね。なるほどひと晩のことだから一つに纏めて現した方が都合は可いかも知れないが、一時間は六十分で、一分は六十秒だよ。連続は・・・ 石川啄木 「一利己主義者と友人との対話」
・・・申しおくれました、作家、劇作家も勿論ある。そこで、この面々が、年齢の老若にかかわらず、東京ばかりではない。のみならず、ことさらに、江戸がるのを毛嫌いして「そうです。」「のむです。」を行る名士が少くない。純情無垢な素質であるほど、ついその訛が・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・劇作家または小説家としては縦令第二流を下らないでも第一流の巨匠でなかった事を肯て直言する。何事にも率先して立派なお手本を見せてくれた開拓者ではあったが、決して大成した作家ではなかった。 が、考証はマダ僅に足を踏掛けたばかりであっても、そ・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・々繰返されてるが、斯ういう軽侮語を口にするものは、今の文学を研究して而して後鑑賞するに足らざるが故に軽侮するのではなくて、多くは伝来の習俗に俘われて小説戯曲其物を頭から軽く見ているからで、今の文学なり作家なりを理解しているのでは無い。イブセ・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・ 小露地方や、北コーカサスの自然は、詩趣に富んで、自由な気が彼等の村落生活に行きわたっていることは、トルストイ、ゴリキイ、其他の作家の作品に描かれている。フィンランドは、世界中で、一番生活のしよい処だということであった。而して陰惨なペト・・・ 小川未明 「北と南に憧がれる心」
・・・ それは、美に対して、正義に対して、その作家が真剣であるという一事であります。私達は、体験を経ないような事柄に対してはそう愛も感じなければ、またそう憎みをも感ずることが出来ない。もとより同感することも出来ないのであります。 親子の関・・・ 小川未明 「芸術は生動す」
・・・ 追分は軽井沢、沓掛とともに浅間根腰の三宿といわれ、いまは焼けてしまったが、ここの油屋は昔の宿場の本陣そのままの姿を残し、堀辰雄氏、室生犀星氏、佐藤春夫氏その他多くの作家が好んでこの油屋へ泊りに来て、ことに堀辰雄氏などは一年中の大半をこ・・・ 織田作之助 「秋の暈」
出典:青空文庫