・・・茶・急須・砂糖・コップ・匙。それをもっているのはСССР市民だけではない。我々だってもっている。 今日はコルホーズの大きいのを見た。トラクターが働いての収穫後の藁山。そこへ雪がかかっている。 ああはやく、はやく! あっちに高い「エレ・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・初めて女房の心持で、白砂糖を買ったら、何でも一斤五十銭の上した。私はおどろいて、一体どうして暮して行くのだろうかと考え考え、小っぽけな砂糖袋をもって、お七で有名な吉祥寺の前の春の通りを歩いて行ったことを覚えている。その頃は刺身が一人前五十銭・・・ 宮本百合子 「打あけ話」
・・・ヘーゲル哲学の進歩的な面をとりあげて、その弁証法的な方法を発展させようとする若い哲学者の一団があった。ヘーゲル左党と呼ばれたこの一団は、ドクトル・クラブを組織していて、十九歳のマルクスはこのグループに入った。ドクトル・クラブはその後「ベルリ・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・東京は街の黄色い葉を落して強い雨降りでしたが。佐藤先生のところへ手紙を寄越して、色々気持の病的なところを訴えてきたそうです。体はみたところ肥って、陽に焼けてしっかりしたようだそうだけれど、神経がどうこう、気持がどうこうというわけで、そちらの・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・谷崎は大谷崎であるけれども、文章の美は古典文学=国文に戻るしかないと主張し、佐藤春夫が文章は生活だから生活が変らねば文章の新しい美はないと云っているの面白いと思います。しかし又面白いことは佐藤さんの方が生活的には谷崎さんのように脂こくはない・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・本来の日本のユーモラスであり腹立たしい人生が見せられたからである。佐藤春夫の「人間天皇の微笑」に対して林房雄は罵らないだろう。これらにはいかなる人生もないから。いわゆるふちの飾りしかないのだから。 文学らしい言葉で云われている林房雄・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・谷崎潤一郎、永井荷風、佐藤春夫等の作家は彼等の古典文学の教養を土台として例えば「盲目物語」「春琴抄」「つゆのあとさき」等の作品を示し、文芸復興はさながらブルジョア老大家の復興であるかの如き外観を呈した。当時にあっては、佐藤春夫は芸術の技法の・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・「たとえば佐藤春夫氏の『星』や『女誡扇綺談』等の作品に流れる世間への憤懣の調べ、川端康成氏の描く最もほのかに美しい世界、あるいは僕らの同じ心の友だちの……。こういう立派な芸術の美しさをまず僕はあらゆる日にとらねばならない。」とする保田与重郎・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
小さき歩み ああ、しばらく、と挨拶をするような心持で、私は佐藤俊子氏の「小さき歩み」という小説を手にとった。この作者が田村という姓で小説を書いていた頃の写真の面影は、ふっさりと大きいひさし髪の下に、当・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・の作者佐藤春夫の「心驕れる女」という連載物に登場する人物にさえ時代の空気が流れ入っていることは、一つの例に過ぎず、当時は通俗小説の中にさえも新しさの象徴として時代的な青年男女の動き、心持ち、理論などと云うものがさまざまに歪曲されながら装飾と・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫